2010年08月05日

たわむれ(その1)

 何だったのだろう、あれは。
 夏コミ合わせのコピー本を作るため、紙を折り折りしていると。
 急に。本当に急に。
 言葉が「五七五七七」で出て来た。
(実際に数えてみたら、八文字の所もけっこうある。まあ、それっぽいリズムって事で。)

 何だかよく分からないけれど、生まれて初めての、珍しい経験だったので、紙の仕分けに使っていたミスコピーの切れっぱしに、どんどん書き付けていった。(ちょうどよく、短冊形のものが手元にあったというのも、奇妙だ。)

 折り折り
 五七五七七
 折り折り
 五七五七七
 折り折り
 …………

 この本に収めた九つの短歌(のようなもの)は、その日のうちに出来た。
 次の日になったら、いくら頭をひねっても、もう五七五七七の言葉は生まれて来なかった。

 ど素人の短歌(かどうかもよく分からないもの)だけを並べて本にしてしまっては、あまりにヒドイ、と思い、その歌にまつわる雑文を付けてみた。さらにヒドイ、という事にならないと良いのだが。
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たわむれ(その2)

私小説 読んで泣いたと 彼が言う
          ざまあカンカン 私の口ぐせ



「ざまあカンカン」
 という言葉を知っている人って、いるのかな。
 東京都荒川区で育った私の母がよく使うので、もしかしたら下町言葉なのかもしれない。我が家だけの言葉である可能性も、かなり高いのだけど。

【使い方】
「○○君ってさ、三菱の車に乗ってたんだよね。」
「ああ、あの、ひどい男。」
「ざまあカンカンだよ。」

 言うまでもなく「ざまあみろ」から派生した言葉なのだが、そこまで攻撃的な力はなくて、
「いい気味だ、フン。」
 と軽くあざ笑うような感じ。

 ちなみに、この歌に出て来る「彼」は全くひどい男なんかじゃない。三菱の車にも乗ってないし。(たぶん)

※この本を出した頃、三菱自動車の不祥事が話題になっていました。
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たわむれ(その3)

歯が折れる 前歯がボロッと 折れる夢
           不安なんだな 不安なんだな



 歯が折れたり抜けたりする夢を、よく見る。特に前歯。

 二年程前、右前歯の神経が化膿し、歯医者から、
「もしかしたら抜く事になるかもしれない。」
 という宣告を受けた。
 その時は治療が上手く進み、抜かずに済んだのだが、
「歯が無くなってしまうかもしれない。」
 という恐怖は、傷跡のようにそのまま残ってしまった。

「歯が無くなるくらいなんだ。死ぬ訳じゃないし。」
 と思う人も多いだろう。私も自分に何度もそう言い聞かせた。しかしおそらく私の中で、歯というのは「生命」の一つの象徴なのだ。だから「歯が無くなる」というのはすなわち、
「私という存在が少しずつ損なわれ、死に近付いてゆく」
 という恐怖につながる。

 体が弱って来ると、ずっとおとなしくしていた菌(ウィルスだっけ?)が突然大暴れして帯状疱疹になるように、私の場合、心が弱って来ると、その恐怖がふっと夢の中に姿を現す。

 今ではちょっとした心のバロメーター。
 夢の中で歯が折れたら、無理しない事。
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たわむれ(その4)

どうしたの? ロボットみたいな あなたの目
             ギュッと抱きしめ ほぐしてあげる



 あんまり忙しい毎日が続くと、心が勝手に「人間である事」をやめてしまう場合がある。そういうのは、その人の目をちょっと覗くだけで、分かってしまう。相手が恋人だったらギューッと体を抱きしめるし、友だちだったら何時間でも喫茶店に居座って、愚痴を聞く。

 それじゃあ、またね。と言って別れる時、相手の瞳に「人間の色」が戻っていると、ほんの少しだけ安堵する。でもまたどうせ明日から、多忙な毎日が、人間の心をすり減らす灰色の日々が、始まってしまうのだ。

 やっぱり根本的解決のためには、会社の社長を射殺するべきなのかしら?
 それとも人事部長?
 厚生労働省の偉い人?

 私には難しい事は分からないけれど、とにかく今の日本で一番早くに解決してもらいたいのは「過労問題」だ。周囲に被害者が多いから、余計にそう思う。

 私自身はこの数年、ブラブラ生きているので、過労とは無縁だ。
 だんだん「普通の労働」とも無縁になりつつある。ヤバイ。
 ちったあ働いたらどうなんだ、自分。
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たわむれ(その5)

聖母子や 哲学者たちの 姿より
          自画像が好き「若きラファエロ」



 ラファエロってかっこ良い……よね?
 自画像を見るたびにうっとりしているのは、私だけ?

 すらりとした体つきに、何かを深く思い続けているような、繊細な表情。
 そして色白な首をふわりと隠す、茶色いロン毛。(今でも使うのか? この言葉)
 そりゃ聖母子も綺麗だけどさあ、やっぱり私は宗教より男だわよ。

 同じように「作品以上に本人の姿が好み」な人に、詩人の中原中也がいる。(え? と思った人、高校の時に使っていた国語便覧で写真をチェックしてみよう。あの麗しい瞳!)

 大学時代、同じ事を思っていた友だちがいて、
「中原中也カッコ良いよね〜! チューヤ!」
 と激しく同意し合ったのが懐かしい。
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たわむれ(その6)

知ってるよ あなたの苦手と 好物を
          エビの手足と ハスはさみ揚げ



 好きな人、というのは何をしていても可愛く思えるものだけど、とりわけ苦手なものを前にしている時の様子は、たまらない。

 映画館で、本編が始まる直前の出来事だ。私と彼氏は席につき、だらだらと流れ続ける大袈裟な宣伝を、見るともなしに見ていた。
 これじゃあ映画の前に寝ちゃうじゃないの、ふわわわわ。暗闇にまぎれて思う存分あくびをしていると、彼氏が突然、私のてのひらを、ぎゅううう、と強く握って来た。

「?」と思って顔を上げると、スクリーンでは、巨大なエビが水だかお湯だかの上を跳ねて、いかに自分が新鮮で美味しいかを見せつけていた。(確か魚介類を得意とするレストランの宣伝だったと思う。)彼氏は私の耳元に口を寄せ、悲痛な叫びを上げた。

「こういうの、苦手なのだ〜!」

 か、可愛い。
 即座に生きた伊勢エビを手渡してしまいたいくらいに、可愛い。(極悪人)いやはや本当に、その映画の内容をすっかり忘れてしまうくらい、素敵な体験だった。(やっぱり私は映画より恋人なのだ。)

 当然、好物を前にした時もたまらない。
「レンコンのはさみ揚げ」
 という言葉は魔法の呪文のように、彼氏の笑顔を子供に戻す。

 ……のろけはいい加減にしろって? はい、はい。わかったよーだ。
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たわむれ(その7)

これだけが 頼りなんです あの時に
          クマさんポーチに 白い錠剤



 何だか思わせぶりな歌だけど、私がいつも持ち歩いているのは痛み止めの「イブA錠」だ。生理が始まった直後にこれを飲まないと、ひどい苦しみを味わう事になる。一分一秒が命取り(これはちょっと大袈裟。でもその時はそれくらい焦る)なので、いつでもどこでも飲めるよう、ポーチの中に箱ごと入れ、常にカバンの底にひそませている。

 私のポーチは無地で、そっけない。クマさんポーチを持っているのは、私の心の中に住んでいる女の子だ。かつて毎日飲んでいた、今は決して飲む事のない、精神を安定させるための白い錠剤。それがカバンの中にちゃんと入っているかどうか、出かける前に必ず確認する。

 彼女は私の不安が具現化したもの。
 いや、もしかしたら。

 世の中全ての女の子の不安。
 世の中全ての男の子の不安。
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たわむれ(その8)

脳みそは 色んな要素の 茶わんむし
          躁・鬱・興奮・不安・防御壁



「人間の感情というものは、脳内物質の分泌によって作られる。」
 と聞いて、何となくがっかりしてしまうのは、私だけだろうか。

 まあもちろん、
「あなたがしょっちゅうヒステリーを起こすのは、間違った生き方をしているせいだ!」
 なんて乱暴に言われるより、よっぽど良いけどさ。

 この「がっかり」は、うーん、何だろう。
「やっぱり私は肉体にしばられているんだ。」
 と再認識してしまうから?

 いや、芸術の無力について考えてしまうせい、かもしれない。
 だって突きつめてゆけば、
「面白い小説を読むより、面白い気持ちになる物質を脳内に分泌させる薬を飲む方が、手っ取り早い。」
 という事になるでしょ?

 小説を読んだ時の気持ちと同じくらい複雑絶妙な感情を呼び起こし、なおかつ安全性の高い薬が開発されたとしたら、小説は。他の芸術は。
 うーん。うーーん。

 変な脳内物質が出そうだから、この事について考えるのは、よそう。
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たわむれ(その9)

手を洗う 何度も何度も 手を洗う
           超キレイ好き それで良いじゃん



 部屋の中が少々乱雑になっても、風呂場のタイルにカビがたっぷり生えても、全く気にならないタチなのだが、何故か手に関してだけは、かなりの潔癖だ。ちょっとした事ですぐ石鹸を使ってしまうので、冬などはこまめにハンドクリームを塗るよう注意しないと、あっという間に手の甲が荒れ果てる。

 確認癖もけっこうひどい。誰かに手紙を出す時は、相手の住所を書き間違えてないか、何度も何度も声を出して確かめるし、コピーをし終わった後など、「コピー機のフタを開ける」「おつりの出口を指で探る」「コピー機のフタを開ける」「おつりの出口を指で探る」「コピー機の…… という運動を永久に続けそうになる。

 自分にとって大切なものほどその傾向が強いらしい。初めてコミケに参加した時など、あんまりしつこく「(荷をほどき)持ち物チェック」「荷造り」「(荷をほどき)持ち物チェック」「荷造り」「(荷をほどき)…… を繰り返すので、一緒にいた友だちは見るに見かねて、

「余計に忘れ物しそうだから、やめなさい!」

 と私を叱った。(正しい。)

 こういうのがさらに悪化すると、「強迫神経症」という病名を付けられてしまうのだろうけど(もしかしたら、もう立派にその病気なのかもしれないけど)、あまり深く悩まずに、自分の神経質な部分と上手に付き合っていきたいなあ、と思っている。

 それに、事務仕事に役立ったりするんだよね、この確認癖。
 周囲の人々をイライラさせてしまうのが、残念な副作用。
 気にしない、気にしない。(本当に神経質なのか?)
posted by 柳屋文芸堂 at 00:09| 【短歌】たわむれ | 更新情報をチェックする

2010年08月04日

たわむれ(その10)

死んでいる ような気持ちで 生きている
               虚無と狂気は 君の友だち



 自分が生きているのか死んでいるのか、分からなくなった事がある。

 最初に就職した会社での仕事が上手くいかなくて、心が餓死しそうになった時だ。ある種の仕事が心に全く潤いをもたらさず、逆に大切な何かをどんどんすり減らしていくという事を、その時、初めて知った。

 芸術が食べたい。思う存分芸術が食べたい。

 そうしないと本当に、私の心は死んでしまう。心が死ぬと、体がまだ生きている事なんて、どうでも良くなる。
 すでに数回、総武線の線路に吸い込まれそうになり、危ない思いをしていた。いや、もっと正確に言うなら、線路に落ちた自分と、ホームに立っている自分の差が、分からなくなっていたのだ。

 仕事で死ぬなんて、バカバカしい。私が死ぬ時は、男で死ぬのよ。
 私は早々に人間をやめるのをやめ、会社を辞めた。しかしこういう決断をする人ばかりではないだろう。

 死んだまま生きている人に対して、私は何をすれば良いのか。
 世界のあちこちに転がっている虚無や狂気と、どう付き合っていけば良いのか。

 答えは、まだほんの少ししか出ていない。
posted by 柳屋文芸堂 at 23:58| 【短歌】たわむれ | 更新情報をチェックする

たわむれ(その11)

 自然発生した短歌(のようなもの)をながめてみると、精神、特にその病的な部分に関するものが多い。これはおそらくその時期に、妙ちきりんな精神科医、伊良部先生が大活躍する、『空中ブランコ』を読んでいたせいだ。正直、この人に診てもらえるなら、精神科(正確には神経科だったかな?)に行くのも悪くないなあ、と思った。

 私の心には病的な部分がある、と感じなくもないのだけど、幸か不幸かその手のお医者さんにかかった事はない。根っからの医者嫌い(プラス、さらにそれを増長させるような事件にも巻き込まれたし)も大きな理由の一つだが、何よりも、どこからが病気なのかよく分からないんだよね。

 少しでも症状が表れたら?
 日常生活に支障を来たすようになったら?
 周囲が異変を感じるようになったら?

 治したい、と決意したら行く、というのもあるかな。うーん、確認癖も拒食癖もヒステリーも先端恐怖症も、そういう決意をする程にはつらくないし。

 軽症なのか。それとも単なる「個性」みたいなもので、病気でも何でもないのか。

 小説を書くのだって、病的と言えなくもない。何たって頭の中に自分以外の人間がウジャウジャいて、勝手にペラペラ話しているのだ。私はそういう会話に耳をすませて、物語という形にまとめる。

 数年前まで、「ついついそんな事をしてしまう自分」が恥ずかしくて、小説を書いている事を誰にも言えなかった。少々の誇りを持って作品を発表するようになった現在でも、その行為が正常なのか異常なのか、判断出来ずにいる。

 心の事は、よく分からない。
 何故小説を書いてしまうのか分からないし、急に「五七五七七」の言葉が出て来た理由も、分からない。

 分からないなりに。
 どうにかこうにかヨタヨタと、生きてゆけたら良いな、と思う。

 柳田のり子
posted by 柳屋文芸堂 at 23:56| 【短歌】たわむれ | 更新情報をチェックする