五月十一日
朝からごはんを炊く。我が家では珍しいことだ。ふだん朝食には、冷や飯をレンジでチンしたものか、パンを食べる。しかし今日は、前日の夕食がスパゲティだったため、残りごはんが無かったのだ。つまり漬け物のために炊いたというわけ。重症かしら。
ごはんが炊き上がるまでに、ぬか床から野菜を出す。漬けてから約十四時間。オクラはやわらかくなっている。試しに一本洗って食べてみると、うん、苦みもなく、薄味で、美味しい。ごはん無しでもパクパクいける感じだ。全部取り出す。みょうがはまだ固い。前回なすを漬けた時、固い部分は漬かりが弱かったので、みょうがも未完成と判断し、出さないことにする。きゅうりはほど良くしなっとした。にんじんは長くかかるだろうと予想したのに、触ってみると、おお、曲がる! 皮をむいたせいか。きゅうり・にんじんともに取り出す。
そのままふたをしようか…… と思ったが、一応忘れないうちにぬかを混ぜることにした。みょうがを一度全部出し、かき混ぜ、また戻す。表面をペタペタ。そのまま室温に置いておく。
ごはんが炊き上がるのを待ち(待ち遠しかった!)朝ごはん。切ったにんじんときゅうりを口に入れると、ごはんも食べずにはいられない。味を確かめたいが、そんな余裕もない。美味しい〜 パクパクパク!
少し落ち着いてから漬け物だけを口に入れると、おお、良い具合に漬かっている。少々しょっぱめで、これはごはんが進む訳だ。
オクラはごはんを食べ終えた後、丸ごと一本ずつ口に入れた。オクラの漬け物なんて一体どうなるかと心配していたけれど(今まで一度も食べたためしがない)こんなにあっさり美味しくいただけるものなのか。生を刻んで醤油をかけたりするのより、こちらの方が好きだ。ねばねばも少し減ったようで、歯にからんだりせず食べやすい。ぬか床がねばねばになるのではないかという不安もあったが、全くそんな気配は無かった。毎日オクラばかり大量に漬ければ、ネバ床が作れるかもしれない……(それも面白そうだ)
次は山芋に挑戦したい。ねばねばつながりだ。難しいかしら。さっそくスーパーで山芋(長芋)を買って来た。
夕方、まずみょうがを出す。細かく刻んで食べてみたが、ううむ、それほど味がしみていない。特に中の方は辛くて、生と一緒。丸一日ぬかに入っていたのに。漬け方にコツがあるのだろうか。
次に、山芋を八つに切り、漬ける。折れてしまいそうで、埋めるのが少々怖かった。ヌルヌルすべるし。二階建て方式で漬け、表面をペタペタペタ。室温に置いておく。気温を見ると、二十一度。乳酸菌が好む温度は十五〜二十度と説明書にある。これなら室温保存がしばらく続いても問題ないだろう。二十二〜二十三度を超したら保冷剤を載せるか、冷蔵保存しなければいけなくなるらしい。
夕ごはんに刻みみょうがを出した。いつものみょうがとあまり変わらないねと、Dちゃんに笑われる。根元と表面はしょっぱくなっていると言うと、お茶漬けに良いかも、とのこと。確かに。ブリのソテーと一緒に食べたら、さっぱりして美味だった。悪くないじゃない。
食後、ぬか床を見ると、ああっ、ふくらんでる! みしみしとぬかを押さえてすきまを無くしたはずなのに、ありの巣のような空気の線が出来ている。入れ物が透明だから分かりやすい。微生物が呼吸しているのだろう。パン生地を発酵させた時にも感じたが、見えないけれど、生きている。ぬか床はただの物ではなく、生き物の、巣なのだ。
こんな時、パン生地もぬか床もわずかに発熱する。室温ではまずいかな。でも山芋にしっかり味を付けたいから、そのままにしておく。あったかくても無茶するなよ! どの菌が無茶すると味が悪くなるのか、分からないけれど。ぬか床には乳酸菌だけでなく、色々な菌がいるらしいから。
元気でいてね、ぬか床。
Dちゃんに見せたら、焼く前のケーキみたいだと感心していた。ふくらみ過ぎて入れ物からあふれないと良いけど……
posted by 柳屋文芸堂 at 12:46|
【エッセイ】ぬか漬け日記
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