2009年09月27日

ぬか漬け日記(その1)

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   はじめに
   
 小泉武夫の「くさいはうまい」を読んでから、ぬか漬けがやりたくて仕方なくなった。この本にはさまざまな発酵食品が出て来る。題名通りどれも美味しそうなのだが、特にぬか漬けは、私の思い出を刺激した。

 実家の伯母はぬか漬け名人で、子どもの頃は毎日、自家製の漬け物を食べていた。しかし今は、高齢のためやっていない。実家に帰っても、あの味を味わうことは出来ないのだ。

 憧れを募らせていたある日、スーパーでぬか漬け初心者用セットを見かけ、衝動的に買ってしまった。商品名は「つかっ樽」、約八百円。この値段なら失敗しても、それほど惜しくない。すぐに使える出来合いのぬか床で、入れ物と追加用ぬかが付いており、詳しい説明書も入っていた。

 その説明書を読むと、ぬか床から野菜を出し忘れないよう注意せよ、とある。確かに、いつ入れたのか分からない古野菜発見! なんてことにはなりたくない。そこで、漬けた野菜の個数を毎回、記録しようと決めた。ついでに、漬け時間も書いておこう。漬かり具合を調節する参考になるだろう。

 それならいっそ、漬けている時にあったこと、気付いたことを、全て書いてしまえば良いのではないか。反省と工夫のために。

 そんないきさつで始まったのが、この日記です。事実をしっかり書き記そうと努めたため、文章がやや硬いですが、お許しを。


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ぬか漬け日記(その2)

   五月五日
 入れ物を熱湯消毒してから、ぬか床を入れる。きゅうりの両端を切り落とし、四本漬ける。こうしないと苦みが出るらしい。まだぬか床が固いので埋めるのが大変。表面をしっかりならしたら、Dちゃん(旦那)に、空気を含ませた方が良いのではないか、と言われる。微生物の呼吸のためにはその方が良いのかもしれない。しかし伯母は表面をペタペタ平らにしていた記憶がある。二人とも正解は分からない。とりあえずぬかがきゅうり全体に触れるよう、空気は入れずぎゅうぎゅうに詰めた。そのまま室温に置いておく。 

 四時間後、一本食べてみる。浅漬けでサラダのよう。悪くない。
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ぬか漬け日記(その3)

   五月六日
 朝(漬けてから約十二時間後)残りのきゅうりを取り出す。ぬかが温かくなっていて驚いた。醸し中で、微生物が盛んに活動しているせいだろう。ぬか床はかき混ぜて冷蔵庫へ。まだ固くて混ぜるのが大変。

 きゅうりはすすいで丸のまま食べる。一回目はしょっぱくなると聞いて心配していたが、それほどでもなかった。伯母の味には遠く及ばないが、悪くない。ごはんが進む。一本のつもりが足りなくて一本半食べる。

 伯母の漬け物との違いは何だろう? 酸味だろうか。

 残りをDちゃんに出したら、しょっぱいと言われてしまった。Dちゃんの実家のぬか漬けは、そんなに塩味がきつくなかったそう。私も体のために塩分控えめにしたいが、まあ、今はまだ、しょうがない。

 ぬかには油分があるようで、かき混ぜると手がしっとりする。きゅうりの表面も生の時とは変わる。面白い。

 ぬかは丁寧にすすがないと、洗い残してしまう。きゅうりの両端の切り口にぬかが残っているのをDちゃんが見つけ、すすぎ直していた。水分が減って切った面がくぼむため、見逃しやすいのだ。今後は気を付けようと思う。

 午後、半分に切った大根を買って来る。皮をむき、九等分してぬかに漬ける。小さい入れ物なので全体を沈めるのに少々苦労する。また室温に置く。

 六時間半後、大根を一片取り出し、洗って味見してみる。浅くだが、一応漬かっている。五片出し、太い四片をぬかに残した。漬かり過ぎないよう冷蔵庫へ。

 大根は一口サイズに切り、夕ごはんのおかずにした。あっさりとして美味しい。Dちゃんは、大根の苦みが少し残っている、と言う。確かに。これが甘みに変わらないと、正しいぬか漬けとは言えないだろう。しょっぱさは弱く、うまみと甘みは強く、出来るだろうか。まずこれを目標にしよう。その前に、毎日かき混ぜる、という基本を守れるよう頑張らなければ。

 二回漬けただけでぬか床はずいぶんやわらかくなった。子どもの頃よく見た伯母のぬか床を思い出す。懐かしい。
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ぬか漬け日記(その4)

   五月七日
 漬けてから二十四時間後、残りの大根を取り出した。冷蔵庫に入れたとはいえ、漬かり過ぎ。しょっぱ〜い! ご飯に合いそうだ。塩辛さの奥に少し甘みもある。

 ぬか床はかき混ぜて冷蔵庫へ。手荒れがひどいのでビニール手袋を使用。混ぜにくい等の問題はなかった。

 夜、谷中しょうが三片(三叉・二叉・叉無し)と水なす二個を漬ける。なすは切るべきか悩んだが、結局タテ半分にした。谷中しょうがと水なすは漬け物専用の食材のように思え、これまで憧れつつも買えなかった(実際は他の調理法もあるようだが) 今回、堂々と王道で使うことが出来て、非常に嬉しい。

 ぬか床はそのまま室温に置いておく。
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ぬか漬け日記(その5)

   五月八日
 朝(漬けてから約十二時間後)谷中しょうがと水なすを取り出す。しょうがはくにゃっとして味もしっかり付いており、問題ないが、なすはまだ中の方が…… 何と言ったら良いだろう? 生のなすの食感。ふわふわ、ぽそぽそ。弾力のないスポンジみたいな…… まずくはないけれど、違和感大有り。きゅうりや大根と違って、なすは生で食べないものな。しっかり漬かってないと。朝ごはんのおかずにするため表面だけ切り取り、残りはぬか床に戻した。もちろんぬかをかき混ぜるのも忘れていない。引き続き室温。

 谷中しょうがはほど良くピリ辛で美味しい。なすの表面(大きなペラペラ)でごはんを包んで食べる。これも悪くない。食後、冷蔵庫を開けて、大根の漬けたのが余っていたのを思い出す。この分だと、漬け物消費に追われることになりそうだ。

 夜(漬けてから約二十四時間後)水なすを取り出す。もう漬かり過ぎているくらいだろう、と思ったのに、中の方がまだ生(ふわぽそ) こんなものなのだろうか。水なすは浅漬けが美味しいと店頭の説明にあったが、浅漬けにしかならないということだったのか。それとも漬ける前に塩でもんだりした方が良かったのか…… とりあえずもうぬかから全部出して食べることにする。はじっこの方はよく漬かっていて美味しい。次やる時は、水なすではなく普通のなすを漬けよう。あとやっぱり、きゅうりや大根のようなそのままでも食べられる野菜の方が、ぬか漬け初心者には向いていると思った。

 次の日出掛ける予定なので、ぬか床は何も漬けずに冷蔵庫へしまった。
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ぬか漬け日記(その6)

   五月九日
 東急ハンズでぬかの水を取る道具(穴の開いた陶器のコップのようなもの)を購入。最初に買ったセットと同じくらいの値段なのはどうなのだろう。まあその分、頑張って続けよう。

 帰宅後、ぬか床をかき混ぜ、冷蔵庫に戻す。大きめの脱臭剤を隣に置いているせいか、臭いは気にならない。入れ物のふたを開けて初めて、あの香りが流れて来る。これだけで飯一杯食えそうだ。
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ぬか漬け日記(その7)

   五月十日
 初心に戻ってきゅうりだけを漬けるつもりが、ついあれもこれもと欲が出て、にんじん半分・みょうが三片・オクラ十本も入れることになる。きゅうりも諦めず、二本。オクラは下ごしらえで黒い部分を削っていたら、一本深く切ってしまい、種が見えるようになってしまった。ここにぬかがはさまるとやっかいなので、塩をかけてパクッと食べた。うん、これも美味い。しかし口の中に独特の苦みのようなもの(えぐみ?)が少し残る。この味、漬けてもこのままだろうか。煮たりゆでたりすればなくなるけど…… 他のオクラは無事で、九本がぬか床行きとなった。

 ぬかをかき混ぜ、まず底の方にきゅうりとにんじんを入れる。それを「一階」とし、ぬかを軽くかけ、「二階」部分にオクラとみょうがを入れる。折れないよう丁寧に。おお、全部収まった! 一度にこんなに作れるのか、と感心する。

 ぬかは入れ物の半分くらいしか入っていない。最初、少ないように思ったが、野菜を漬けたりかき混ぜたりするにはこれくらいがちょうど良いようだ。

 実家にあったぬか床は、直径・高さとも五十センチ程の円筒形で、いつも上の方までたっぷりぬかが入っていた。あの大きさなら、混ぜるのに困ったりもしなかったのだろう。今回買ったぬか漬け初心者用セットを見るまでは、あのでっかい入れ物がないとぬか漬けは出来ないと信じていた。あんなものが台所を占拠したら、身動きが取れなくなってしまう。無理、無理。そう諦めていた。

 今使っている入れ物の大きさは、食器棚や冷蔵庫の片すみに置けばじゃまにならない程度だ。思いのほか沢山漬けられるし、二人暮らしならこれで十分だろう。

 大きなぬか床に、多種多様な野菜が大量に漬かっている様子を思い浮かべると、夢みたいでうっとりするけど……(誰が食べるの?)

 ぬか床は室温に置いた。明日が楽しみだ。
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ぬか漬け日記(その8)

   五月十一日
 朝からごはんを炊く。我が家では珍しいことだ。ふだん朝食には、冷や飯をレンジでチンしたものか、パンを食べる。しかし今日は、前日の夕食がスパゲティだったため、残りごはんが無かったのだ。つまり漬け物のために炊いたというわけ。重症かしら。

 ごはんが炊き上がるまでに、ぬか床から野菜を出す。漬けてから約十四時間。オクラはやわらかくなっている。試しに一本洗って食べてみると、うん、苦みもなく、薄味で、美味しい。ごはん無しでもパクパクいける感じだ。全部取り出す。みょうがはまだ固い。前回なすを漬けた時、固い部分は漬かりが弱かったので、みょうがも未完成と判断し、出さないことにする。きゅうりはほど良くしなっとした。にんじんは長くかかるだろうと予想したのに、触ってみると、おお、曲がる! 皮をむいたせいか。きゅうり・にんじんともに取り出す。

 そのままふたをしようか…… と思ったが、一応忘れないうちにぬかを混ぜることにした。みょうがを一度全部出し、かき混ぜ、また戻す。表面をペタペタ。そのまま室温に置いておく。

 ごはんが炊き上がるのを待ち(待ち遠しかった!)朝ごはん。切ったにんじんときゅうりを口に入れると、ごはんも食べずにはいられない。味を確かめたいが、そんな余裕もない。美味しい〜 パクパクパク!

 少し落ち着いてから漬け物だけを口に入れると、おお、良い具合に漬かっている。少々しょっぱめで、これはごはんが進む訳だ。

 オクラはごはんを食べ終えた後、丸ごと一本ずつ口に入れた。オクラの漬け物なんて一体どうなるかと心配していたけれど(今まで一度も食べたためしがない)こんなにあっさり美味しくいただけるものなのか。生を刻んで醤油をかけたりするのより、こちらの方が好きだ。ねばねばも少し減ったようで、歯にからんだりせず食べやすい。ぬか床がねばねばになるのではないかという不安もあったが、全くそんな気配は無かった。毎日オクラばかり大量に漬ければ、ネバ床が作れるかもしれない……(それも面白そうだ)

 次は山芋に挑戦したい。ねばねばつながりだ。難しいかしら。さっそくスーパーで山芋(長芋)を買って来た。

 夕方、まずみょうがを出す。細かく刻んで食べてみたが、ううむ、それほど味がしみていない。特に中の方は辛くて、生と一緒。丸一日ぬかに入っていたのに。漬け方にコツがあるのだろうか。

 次に、山芋を八つに切り、漬ける。折れてしまいそうで、埋めるのが少々怖かった。ヌルヌルすべるし。二階建て方式で漬け、表面をペタペタペタ。室温に置いておく。気温を見ると、二十一度。乳酸菌が好む温度は十五〜二十度と説明書にある。これなら室温保存がしばらく続いても問題ないだろう。二十二〜二十三度を超したら保冷剤を載せるか、冷蔵保存しなければいけなくなるらしい。

 夕ごはんに刻みみょうがを出した。いつものみょうがとあまり変わらないねと、Dちゃんに笑われる。根元と表面はしょっぱくなっていると言うと、お茶漬けに良いかも、とのこと。確かに。ブリのソテーと一緒に食べたら、さっぱりして美味だった。悪くないじゃない。

 食後、ぬか床を見ると、ああっ、ふくらんでる! みしみしとぬかを押さえてすきまを無くしたはずなのに、ありの巣のような空気の線が出来ている。入れ物が透明だから分かりやすい。微生物が呼吸しているのだろう。パン生地を発酵させた時にも感じたが、見えないけれど、生きている。ぬか床はただの物ではなく、生き物の、巣なのだ。

 こんな時、パン生地もぬか床もわずかに発熱する。室温ではまずいかな。でも山芋にしっかり味を付けたいから、そのままにしておく。あったかくても無茶するなよ! どの菌が無茶すると味が悪くなるのか、分からないけれど。ぬか床には乳酸菌だけでなく、色々な菌がいるらしいから。

 元気でいてね、ぬか床。

 Dちゃんに見せたら、焼く前のケーキみたいだと感心していた。ふくらみ過ぎて入れ物からあふれないと良いけど……
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ぬか漬け日記(その9)

   五月十二日 
 ぬか床、見た目はまあ、無事。ただふたを開けると、明らかにアルコール臭が強い。説明書にはあまり良くないこと(異常発酵)として書いてある。冷やして菌を落ち着かせたくても、冷蔵庫の中がおかずでいっぱい。まいったな。

 夜(漬けてから約二十四時間後)山芋を取り出す。少しやせて筋っぽくなり、弾力がついた。ちょっとかじると、しょっぱい! これは漬け過ぎだったかな。変な味にはなっておらず、ホッとした。表面のヌルヌルは消えてしまった。

 夕ごはんに出すとDちゃんが、面白い、美味しいと言ってパクパク食べるので驚いた。アルコールが強く、粕漬けっぽい雰囲気なのが気に入ったらしい。これはそれほど塩辛く感じないそう。漬けた山芋を食べるのは初めてということで、さかんに珍しがっていた。私は母が珍味屋で買って来たのを何度か食べた気がする。珍味が家で手軽に! おお。

 今日の発酵が一体どうなっていたのか知りたくて、「もやしもん」を読み直してみると、日本酒造りの説明部分が近い気がした。二十度を超えてこうじ菌が元気になり、でんぷん(芋には沢山含まれている)を糖に変える。その糖を食べた酵母がアルコールを出す。危うく芋焼酎にしてしまうところだった。

 まあそこまでは無理だとしても、軽いアルコールなら自分の家で生み出せるというのを実証したのは、大きな発見のように感じた。アルコールなんて、大きな設備がなければ一滴も作れない気がしていた。パン生地の発酵でもアルコールは出来るが、焼くと飛んでしまう。山芋はそのまま、アルコールの味を楽しめるのだ。

 しかしこのままだと乳酸菌が弱まり酸味が出なくなりそうなので、説明書を参考に、塩を小さじ半分足してみた。本当は「七〜八回漬けたら大さじ一」とある。けれど突然そんなに味が変わったら困ってしまうので、毎回少しずつ足してゆくことにしたのだ。

 かき混ぜて、冷蔵庫のすみに突っ込む。漬けるのは一回休み。明日はきゅうりにするか。本当はゴーヤをやってみたいが、その後漬ける物が全部苦くなりそうで出来ない。残念だなぁ。
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ぬか漬け日記(その10)

   五月十三日
 四川きゅうりを買って来たが、時間が無くて漬けられなかった。かき混ぜて、引き続き冷蔵庫。あまりぬからしい良い香りがしない。悪い方に変化してしまったのだろうか。少々不安。
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ぬか漬け日記(その11)

   五月十四日
 夜、ぬか床を混ぜ、四川きゅうりを四本漬けた。発酵で空気を含んだぬかは、お菓子のスフレのようにふわふわしている。やわらかいので、掘ったりせずきゅうりを上に横たわらせてぐっと押せば奥に入っていく。便利だ。

 四川きゅうりは普通のきゅうりより大きめでイボがしっかりしており、味が濃い。醤油で軽く漬けると非常に美味しいのだが、ぬか漬けはどうだろう。皮が厚いので少々心配。まあどんな種類でもきゅうりはきゅうり。漬かりやすさは変わらないと思うが。

 冷蔵庫に入れる予定だったのに、ギュウギュウで入らない。こうじ菌と酵母の勢いを抑えて、乳酸菌を増やしたいのに。まあ、あんまり低温だと漬かりが弱くなるから、一晩外に置いておくことにする。
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ぬか漬け日記(その12)

   五月十五日
 朝(漬けてから約十二時間後)ぬか床を冷蔵庫に入れる。また激しく発酵していて、ふたの近くまでふくらんでいる。このままではあふれるぞ! 臭いをかぐと、ぬからしい香りにアルコールが少々。悪い臭いではない。よしよし。

 夜(漬けてから約二十四時間後)きゅうりを取り出した。初心者でも漬けやすいきゅうり! 美味しいきゅうり! と期待していたのに、切って食べてみると…… うーん、微妙。しょっぱさが足りないし、何だか舌がピリッとする。気のせいだと良いのだか。何切れも食べた。うーん、うーん。とりあえず、酸味が出た。でもこれは良い酸味なのだろうか。説明書にある「嫌な臭いを出す酪酸菌」の仕業だとしたら。ネットで酪酸菌を調べてみると、毒というほどでもないようだが、「醸造食品の劣化の原因」とある。

 ぬか漬けをやっていると、ぬかの中の菌についてちゃんと知りたくなる。農大で醸造学を学んだ友人がいるので、電話して相談しようかと何度か思った。しかし今は遠い島の住人。ああそうか、メールすればいいのか。

 とりあえず今日は友人を頼らず、説明書を参考に自分で考え、塩大さじ半分と追加用ぬか少々を入れて混ぜてみることにした。塩加減が味だけでなく、菌培養のポイントらしいので。追加用ぬかには水気がないため、ぬか床は少し固くなった。

 これまでは出来合いのぬか床の力で漬け物を漬けてきた。しかしこれからは「私の」ぬか床として成熟させなければいけない。成功も失敗も私の管理にかかっている。頑張らなければ。

 今日はなすを漬ける。細長い博多なすだ。縦半分に切り、切り口を下にして、掘り返したぬかに入れる。三本なので、半分が六つ。前回失敗しているので、今回は上手くいって欲しい。

 夕ごはんにきゅうりを出した。Dちゃんに、悪くなってないか確認してみて欲しい、と言うと、そんな感じはしない、とのこと。ただ、二十四時間漬けたのにこの味? と薄味に驚いていた。二人で醤油をつけたり、ラッシに落としたりして食べた。もしかしたら、四川きゅうりが普通のきゅうりより味が濃いせいで違和感を覚えるのかもしれない。塩がこんなに弱くては素材の味が出過ぎてしまう。

 明日は上手くいきますように。
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ぬか漬け日記(その13)

   五月十六日
 朝、昨日のきゅうりの残りに少し塩を振った。

 夜(漬けてから約二十四時間後)なすを出した。今回はやわらかくしぼんで、まあまあ上手くいった。一部、塩味が弱いところがあったが、問題というほどでもない。ミョウバンを入れなかったため、色がまだらに抜けた。私は見た目を気にしないけれど、綺麗な方が食欲をそそるかしら。ミョウバンって体に良いものなのか悪いものなのか、全く知らない。使うとしたら調べてからだ。

 まだぬかは激しく発酵していて、気泡を含みふわふわとふくらんでいる。臭いをかいでみるとアルコール臭が強く、悪い臭いではないが、もうちょっと普通のぬかみそらしい香りになって欲しい。対策として、塩大さじ一と、菌を抑える力があるという唐辛子(粉)を五振り入れてよく混ぜ、何も漬けずに冷蔵庫に入れておくことにした。

 夕ごはんにきゅうりとなすを出す。塩のおかげできゅうりはしんなりし、味も漬け物らしくなった。なすはDちゃんに好評で、いっぱい食べてくれた。
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ぬか漬け日記(その14)

   五月十七日
 夜、ぬか床を混ぜた。塩と唐辛子が良かったのか、今日はふくらんでいない。温度が低いせいか臭いも弱め。少し水が出て来たので、東急ハンズで買った水を取る道具を挿した。そのまま冷蔵庫へ。

 明日あたりから何か漬け始めようか。
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ぬか漬け日記(その15)

   五月十八日
 夜、塩小さじ半分を入れてから、ぬかを混ぜた。水取り器には小さじ一ほどの水がたまっている。量が少ないのが少々不満だが、ぬかとそれほど混ざらずに水を分離出来たので感心した。取り出して水を捨て、軽くすすぐ。

 大根半分を縦半分に切って漬け、すきまに水取り器を挿し込む。よく漬かるようぬか床は室温に置いた。また発酵し過ぎないと良いが。

 今夜のメニューはスパゲティだ。ぬか漬けがあるとどうしてもご飯を炊くことになり、それに合わせておかずも和風になる。だからぬか漬けのいないすきを見て、洋食を作ることになる。和食も好きだが外国の料理も好きなのだ。

 ぬか漬けを始めてから、和食の割合が上がった気がする。ぬか漬け一つで食生活全体に変化が出るとは。面白い。

 中国、韓国、ベトナムなど、アジアの料理なら、ぬか漬けとも相性が良いのではないか。インドのカレーだってそんなに悪くないはずだ。ピクルスの代わりにぬか漬け。

 そのうち試してみよう。
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ぬか漬け日記(その16)

   五月十九日
 さっそく今晩カレーにして、ぬか漬けとの組み合わせを試そうと思ったのに、Dちゃんの猛反対に遭う。食べ物の味の相性を見極める力は、私よりDちゃんの方がずっと上なので、素直に従った。その代わり、小松菜とマグロのインド風炒め物を、夕ごはんのおかずに出す。約二十四時間漬けた大根は酸味と塩味がしっかりついていて、スパイシーな炒め物によく合った…… と私は思う。Dちゃんも両方美味しそうに食べていた。組み合わせとして認めてくれたかは、不明。

 大根は縦半分にしか切らなかったので、中の方まで漬かるか心配だったが、ちゃんとまんべんなく味がしみた。ぬかから出したばかりの時にはまだ少しアルコール臭がしたけれど、切って食卓に出したら、普通のぬか漬けの臭いになっていた。理想の味に近付いている、とDちゃんが言う。私もそう思う。

 あと、切り方が僕の好みだ、と褒められた。ただの半月薄切り。そういえば前回はサイコロ形だった。あれはイヤだったのか。色々好みがあって、気にし始めると大変だ。私も食べ物に関してはあれこれこだわりがあるので、文句は言えない。似たもの夫婦だ。

 残念だったことが一つ。唐辛子を入れたのに全くピリッとしなかった。ちょっと期待していたのに。次にぬか床をかき混ぜる時にまた振りかけよう。塩だけで菌の調節をしようとすると、どうしても塩分過多になってしまう。塩分控えめでなおかつ菌のバランスも良いぬか床を作るのが夢だ。そのために唐辛子を上手く使いたい。万が一辛くなっても、私たちは辛いもの好きだから大丈夫だ。菌が全滅したら困るけれど。

 ぬか床はずいぶん水っぽくなった。水取り器には大さじ一ほどの水がたまっていたので、かき混ぜる前に捨てた。もうちょっと沢山取れると良いのに。

 今日漬けたのは、にんじん一本、セロリの茎一本分、アスパラガス十本。セロリは長いので半分に切った。全部が隠れるようにして、冷蔵庫へ。
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ぬか漬け日記(その17)

   五月二十日
 ぬか漬けを食べるようになってから、お腹の調子が良くなった気がする。乳酸菌まみれの野菜だもの、当然か。逆に心配なのは、高血圧。これは年を取ってから来るものな。今のうちから塩分取り過ぎにならないよう気を付けよう。

 朝、冷蔵庫からぬか床を出し、室温に置いた。夕方(漬けてから約二十二時間後)漬けたもの全てを取り出す。味見すると、ううむ、漬かりが浅い。しなっとしているから平気だと思ったのだが。アルコールが強くならないようにと前半冷蔵庫に入れたのが良くなかったか。どれもクセが強い野菜だから、漬かっていないとかなりいまいちだ。Dちゃんは、ただの生のセロリじゃん! と騒いでいた。漬けセロリの美味しさを教えたかったのに…… たとえ今後上手くいっても、食べてくれないかもしれない。

 ぬか床は、唐辛子二十五振りと塩小さじ半分を入れて混ぜた。表面が真っ赤になってひるんだが、すぐぬかの淡い茶色の中に溶けた。今日は何も漬けないので、水取り器を挿してそのまま冷蔵庫へ。
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ぬか漬け日記(その18)

   五月二十一日
 夜、追加用ぬかを入れてぬか床をかき回し、きゅうりを四本漬けた。室温に置いておく。
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ぬか漬け日記(その19)

   五月二十二日
 朝、またもやぬか床がふくらんでいるのを発見。冷蔵庫はいっぱいで入れられない。室温がずいぶん高い(二十四度)ので心配する。

 夜(漬けてから約二十四時間後)きゅうりを出した。切ってみると、何故か果肉がぬか色に染まっている。塩味も強い。やや漬かり過ぎだ。分厚く切るとしょっぱくて食べられないのではないかと思い、薄く小口切りにした。

 きゅうりはまだピリ辛になっていなかった。あれだけ入れても味に影響が出ないのか。唐辛子を五十振り追加して、ぬかをかき混ぜる。その後半分の大根を縦に三等分して漬けた。

 この夜、Dちゃんは残業が長引いて帰って来なかったので、きゅうりを食べてもらうことが出来なかった。
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ぬか漬け日記(その20)

   五月二十三日
 早朝、Dちゃん帰宅。何も食べずに寝たらしい。起きた後、きゅうりでごはんでも食べないかと誘ってみるが、時間がないと断られる。

 大根が大きかったため、ぬかの一部分が盛り上がり、はじっこにくぼみが出来た。そこに置いた水取り器に、水が沢山たまった。昼間のうちに三回ほど捨てた。

 夜(漬けてから約二十四時間後)大根を出した。またもやぬか色。味はそれほどしょっぱくなくてホッとした。酸味が強い。辛さは、少しピリッとするようになったが、まだ物足りない。唐辛子を五十振り追加し、かき混ぜた。

 今日は何も漬けずに、冷蔵庫へ。毎日作っていたら漬け物まみれになってしまう。

 深夜、Dちゃん帰宅。今度は一緒にぬか漬けを食べることが出来た。ちょっとしょっぱいが、ずいぶんぬか漬けらしくなったと褒めてくれた。やはり塩加減が一番難しい。味を安定させたいものだ。
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ぬか漬け日記(その21)

   五月二十四日
 夜、ぬか床をかき混ぜた。何も漬けないとなるとけっこうおっくうだ。冷蔵庫には切ったぬか漬けが二種残っている。早く消費しなければ。
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ぬか漬け日記(その22)

   五月二十五日
 今日もかき混ぜるだけ。なかなかグッと来る漬け材料が見つからない。ウリをやりたいのだが、なかなか出て来ない。まだ時期じゃないのかな。

 夜、北イタリアの伝統料理「ポレンタ」を食べた。とうもろこしの粉を熱湯でねったもので、あっさりしている。同じ炭水化物だし、と思いぬか漬けと一緒に食べたら、昔かたぎなイタリア男と頑固な日本男児が道ばたで唐突にケンカを始めたような、訳の分からない状態になった。とうもろこしの甘みとぬか漬けのしょっぱさが、笑ってしまうほど合わない。

 ポレンタにはピリ辛のトマトソースがぴったりだ。

 ぬか漬けには、白いごはんである。当然か。
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ぬか漬け日記(その23)

   五月二十六日
 夜、塩小さじ半分を入れてぬか床をかき混ぜ、縦半分にした山芋を漬けた。そのまま室温に置く。唐辛子も沢山入れたし、もうそろそろ山芋に再挑戦しても良いかな、と思ったのだ。異常発酵しないことを祈る。
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ぬか漬け日記(その24)

   五月二十七日
 心配しながら何度もぬか床を確認。唐辛子と塩が良かったのか、ふくらんでいない。臭いをかぐと、ぬからしい香りがほのかにする程度。菌の活動が抑えられているのだろう。昼間のうちに水取り器にたまった水を捨てた。

 夜(漬けてから約二十四時間後)山芋を出した。辛くもならず、しょっぱくなり過ぎもせず、良い味に漬かった。酸味が出て、前回作ったものよりも、珍味屋で買ったものに近くなった気がする。

 粕漬けのようにはならなかったので、Dちゃんが気に入ってくれるか不安だったが、美味しいと言ってくれた。フルーティーで、シャキシャキしていて、まるで梨のようだ、と。梨がこんなにヌルヌルしてしたら、イヤだと思うけど。今回は山芋の食感がほとんどそのまま残っているのだ。菌がそんなにヌルヌルを食べなかったのだろう。それでもうまみはしっかり出ている。

 山芋がフルーティーになるというのは、なかなか面白い。手間をかけて作った日本酒には、果物のような甘い香りがあると、「もやしもん」に書いてあった。山芋に起こったのも、同じ作用だろうか。

 突き詰めて考えると、フルーツをフルーティーにしているのも、菌なのかもしれない。その証拠に、熟れてないフルーツは全くフルーティーではないし、腐る寸前のフルーツは最もフルーティーで、美味しい。これは人間に悪さをしないギリギリまで菌が増えたためだろう。

 つまり、フルーツはフルーツだからフルーティーなのではなく、菌に愛されたものがフルーティーになり、たまたま自然な状態で菌に愛されやすいのがフルーツだった、というだけなのではないだろうか。

 いやまてよ。ものをフルーティーにする作用は発酵だけでなく、「酸化」もある。高級な紅茶や烏龍茶に果物の香りを生じさせるのは、菌の働きではなく、酸化だ。フルーツが熟れる、というのはこちらの方が近いのだろうか。それとも発酵と酸化がともに起こるのだろうか。

 知識の少なさにイラ立つ。農学部に入り直そうかしら。

 ぬか床に付いてきた説明書だけでは、物足りなくなってきた。ぬか漬けの結果がまばらになるのにも、不満を感じる。ギャンブルのようで楽しい部分でもあるのだけれど。農学部は無理としても、本でちゃんと勉強したいな。

 ぬか床はかき混ぜ、冷蔵庫にしまった。
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ぬか漬け日記(その25)

   五月二十八日
 果物が熟れて美味しくなるのは、何の作用なのか、農大出身の友人に質問メールを出した。

 自分でも調べてみようと、図書館に行く。ぬか漬けについて科学的に、かつ初心者にも分かりやすく書いてある本はないかと探し回ったが、全く見つからない。料理本コーナーの本は実践的で、菌のことはほとんど書いてないし、生物学のコーナーの本は菌について詳しく書いてあっても、ぬか漬けについての記述はおまけ程度だ。その他関連のありそうなコーナーはあらかた見たけれど、どこにも置いてない。

 これはもう、自分で書けという事か。

 夜、塩小さじ半分を入れてぬか床をかき混ぜた。今日は白ウリを漬ける。いつも行くスーパーではなく、駅ビルに入っている八百屋で見つけたのだ。縦半分に切ると、種がたっぷり詰まっている。メロンの種をやわらかくしたような感じ。何となく、これも食べられそうな気がする。しかし実家で食べたウリの漬け物に、種は付いていなかった。もったいない、と思いながら、スプーンで種をきれいに取り除いた。皮がある方を上にして、ぬかの中に埋めた。
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ぬか漬け日記(その26)

   五月二十九日
 友人から返事が届く。どうも果物が熟れる仕組みは単純なものではないらしい。彼女が教えてくれたことを足がかりにして、自分でも調べてみようと思う。私って理系だな、と今更再確認。

 夜(漬けてから約二十四時間後)、白ウリを取り出す。酸味が出て、なかなか良い仕上がりだ。実家と同じように厚め(四ミリほど)に切った。夕ごはんに出すと、少しクセがあるね、とDちゃんに言われる。さっぱりしていて食べやすい味だと思っていたので、驚いた。私が好むものは、たいていクセ有りの判定が出るのだが。それでも割と気に入ってくれたようで、いくつも食べていた。ホッとする。

 塩小さじ半分を入れてぬかを混ぜ、新しょうが三片を漬けた。谷中しょうがより大きく、普通のしょうがのような皮がない。これも駅ビルの八百屋で見つけたのだ。寿司屋のガリのようなものを想像し、ワクワクする。
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ぬか漬け日記(その27)

   五月三十日
 夜(漬けてから約二十四時間後)、新しょうがを出した。漬かりにくいのではないかと心配していたが、しっかりやわらかくなっている。薄切りにした。一枚食べてみると、辛い! でも美味しい、のではないだろうか。

 ぬか床はかき混ぜた後、冷蔵庫に入れた。唐辛子のおかげか、このところ異常発酵してふくらんだりしない。味も見た目も香りも、ずいぶん落ち着いた。

 夕ごはんに新しょうがを出すと、辛い、こりゃ、しょうがそのままだ。ぬか漬けという気がしない、等々、Dちゃんから辛めの感想をもらう。その割にけっこう食べていた。何だよ。
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ぬか漬け日記(その28)

   五月三十一日
 今日の夕ごはんは、ナンプラーで味を付けたアジア風焼きそばだ。少し薄味だったため、しょうがの漬け物がよく合った。これは美味しい、とDちゃんはパクパク食べていた。ごはんだけだとしょうがの辛さが強く出過ぎてしまうけれど、油分があり、味の付いている焼きそばなら、互角に戦えるという訳だ。

 ただ、しょうがと一緒にした途端、ナンプラーの存在感は弱まり、アジア風じゃない普通の塩焼きそばみたいになってしまった。美味しかったから、まあ良いか。

 ぬか床はかき混ぜて冷蔵庫へ。何も出しも漬けもしない時はちょっとおっくうだ。サボっちゃおうかな、と一瞬思うが、やはり心配なので頑張る。
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ぬか漬け日記(その29)

   六月一日
 ぬか床はかき混ぜて冷蔵庫へ。しょうがも無くなったし、またすきを見て洋食。今夜はトマトソースのスパゲティだ。こんなに簡単で美味しい料理を発明した南イタリア人は偉大だと思う。もともとは、貧しい人々がお腹をふくらませるために工夫した食べ方だったらしい。チーズは肉の代用品だったというし、ワインは水より安い場合もあるという。チーズとワインが好き、などと言ったら、品のない娘だと判断されてしまうと、聞いたことがある。

 トマトソースにチーズとワイン。イタリアの貧乏人は、少々贅沢過ぎやしないか。

 杉浦日向子は漫画「東のエデン」の中で、開国直後(明治六年)の日本の食卓を、アメリカから派遣された男性の視点で、こんな風に描いている。

 日本人は、ただ、ただ、米を食べる。
 米を胃袋に流し込むために
 タンニン酸の溶液(緑茶)と
 二切れの大根の塩漬けを倶す。
 彼らの筋肉を作り、
 関節の油を補うのに、
 一片の肉も必要とはしないのだ。
 −−さればこその楽園だろうか?
 たしかにここには
 追放前の
 アダムとイヴがいる。

 前々から感じていたことだが、和食というのは世界的に見て、かなり油分が少ないのではないか。だし一つ取っても、日本はカツオとこんぶと煮干しである。他の国でも海に接した地域では魚介類を使う場合もあるけれど、大部分は肉のエキスがベースになる。当然、脂肪が入る。

 洋風化の進んだ現在ですらそうなのだから、開国直後の日本人の食事は、外国人にとってびっくり仰天であったろう。よくそんなもので生きていられるね、と。

 おそらく進化論的淘汰によって、油分が無くても平気な人間だけが生き残ったのではないか。食文化におけるガラパゴス、日本(この辺は私の勝手な推測なので、話半分に聞いてください)

 だから油っぽい洋食が続くと、胃がおかしくなり、やっぱり日本人は和食よね、ということになる。習慣である前に、遺伝子からしてすでに違うのだ、きっと。

 肉は必要としなかったのに、うまみは決してあきらめなかったのが面白いところだ。みそ、しょうゆ、納豆など、発酵によって植物性食品からうまみを引き出している。その最たるものが、ぬか漬けではないか。肉と一緒にして美味しくするのではなく、野菜そのものをうまみたっぷりにしてしまう。

 楽園のアダムとイヴに、ふさわしい知恵かもしれない。
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ぬか漬け日記(その30)

   六月二日
 夜、ぬかを混ぜ、新しょうがを四片入れた。しょうがは一部分カレーのスパイスとして使い、その残りを漬け物に。皮をむかなくて良いから便利だ。

 ぬかの表面をペタペタならし、ふたを閉めた後で気付いた。塩入れるの忘れた! まあ、今ある塩分だけでどうにかなるだろう。

 そのまま室温に置いておく。
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ぬか漬け日記(その31)

   六月三日
 夜(漬けてから約二十四時間後)、新しょうがを出した。今回は千切りにする。夕ごはんは昨日の残りのカレーだ。合うかな、とDちゃんは不安そうだったが、インドカレーの上にしょうがを載せることがあるのを思い出し、気を取り直して食べていた。前回より辛さがまろやかになったと言う。漬かり具合より、切り方が良かったのかもしれない。

 ぬか床は塩小さじ一を入れて混ぜ、やまと芋を漬けた。山芋の一種で、粘りけが強い。これまでに使った山芋は長芋なので、違いがどう出るか楽しみだ。

 そのまま室温に置いておく。
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ぬか漬け日記(その32)

   六月四日
 夜(漬けてから約二十四時間後)、やまと芋を出した。細めに切って食べてみると…… う〜ん、微妙。土っぽいようなクセが抜けず、長芋のようなさっぱり感がない。やはりやまと芋は生食に向かないのだろうか。

 ぬか床は追加用ぬかを入れて混ぜた。大根半分を縦半分に切って漬け、そのまま室温に置いておく。

 夕ごはんにやまと芋のぬか漬けを出したが、おかずが多くて食べてもらえなかった。まだ新しょうがもある。だんだん追われて来たぞ。明日は休もう。
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ぬか漬け日記(その33)

   六月五日
 夜(漬けてから約二十四時間後)、大根を出し、薄切りにした。よく漬かっているが、塩味が弱い。追加用ぬかに含まれている塩分だけでは足りなかったか。ぬか床は混ぜ、冷蔵庫に入れた。

 Dちゃんは会社で夕ごはんを食べたそうで、家ではデザート(フルーツヨーグルト)だけしかいらないと言う。

 漬け物が残る。寂しい。
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ぬか漬け日記(その34)

   六月六日
 今日、ようやくDちゃんが漬け物を食べてくれた。

 Dちゃんは小皿を出し、やまと芋のぬか漬けにしょうゆをたらした。こうすると美味しい、と言う。それでは生で食べるのと変わらないのでは? と聞くと、かじった後、ぬかの香りがふわっと広がる。そこが違う。とのこと。確かにそうだ。日にちが経ったせいか、土っぽさは全く気にならない。

 私も小皿を出し、しょうゆの水たまりを作った。やまと芋をそこに入れ……ようとしたらツルッと落っこちて、テーブルにしょうゆがはねた。やまと芋もしょっぱくなり過ぎた。ぬかの香りも何もあったもんじゃない。

 しょうゆは少しだけにしなきゃ、とDちゃんにあきれられる。

 同じようなやり方で大根も食べた。これも悪くない。

 ぬか床は混ぜ、冷蔵庫に入れた。
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ぬか漬け日記(その35)

   六月七日
 今日の夕ごはんはネギトロ丼だ。どんぶりにごはんをよそり、トロのたたきを載せる。さらにアボガドと、やまと芋と大根の漬け物も加え、みじん切りのネギをたっぷりかける。味付けはしょうゆと、わさびか柚子こしょう。私は柚子こしょうにする。

 全ての食材がまんべんなく混ざり合っては、いけない。それぞれの味がくっきり立ち上がっていなければ。一口目は、トロとネギとしょうゆと柚子こしょう。二口目は、大根と柚子こしょう。三口目は、アボガドとトロとしょうゆ。組み合わせの違いによって、味わいや食感が鮮やかに変化する。いくら食べても飽きない。どんぶりはみるみる空になる。

 トロとやまと芋が妙に合って、これはすごい、と驚いたが、よく考えたら山かけと同じ材料じゃないか。

 ネギトロ丼にしようと提案したのはDちゃんだ。漬け物にぴったりだったでしょう、と嬉しそうに言う。私はごはんを口いっぱいにほおばったまま、コクコクうなずく。

 食べ過ぎて、しばらく動けなかった。しかし頑張って立ち上がり、ぬか床を混ぜ、冷蔵庫にしまった。


 華やかな食事を終えたところで、この日記はひとまず締めたいと思う。
 ぬか漬けの日々は、もちろんこれからも続く。
 なるべく長く。出来ればずっと。
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ぬか漬け日記(その36)

【研究コーナー】
 ぬか漬けを漬けている時に疑問に思ったことを、調べてみました。

☆ぬかに空気を含ませた方が良いのか?
 ぬか漬け発酵の主役である乳酸菌が、酸素をあまり好まないので、ぬか床は混ぜた後、空気をしっかり抜いた方が良いようです。

☆ぬか床を混ぜる理由は?
 悪臭の元になる、産膜酵母と酪酸菌の増加を抑えるためです。ぬか床を混ぜることにより、まず、酸素を好み、ぬか床の表面に集まる産膜酵母をぬか床の奥に押しやります。さらに、酸素を好まず、ぬか床の奥にたまる酪酸菌をぬか床の表面に持ち上げます。毎日毎日、苦手な場所へ連れていく作戦ですね。

☆ミョウバンの健康への影響は?
 大量に摂取しなければ問題ないようです。ミョウバンはベーキングパウダーにも入っているので、スコーンやホットケーキをよく作る我が家では、知らないうちに口にしていました。
 Dちゃんに、ぬか漬けでミョウバンを使った方が良いか尋ねてみたところ、味さえ良ければ色は気にしないと言われたので、買わない事にしました。

☆フルーティーとは何か?
 フルーツが熟れるのは、発酵の力ではありません。だからと言って発酵と全く関係ない訳ではないのが難しいところ。
 ぬか床の発酵では乳酸やアルコールの他に、多種多様な微量物質が発生します。その中に、どうも果実の香りの成分に似たものがある様子。それがフルーティーさを感じさせたようです。
 お茶も、お酒も、ぬか漬けも、果物も、突き詰めていけば「酵素」の力で完成するので、共通する部分があるのかもしれません。複雑過ぎて詳しく理解することは出来ませんでしたが。有機化学に脳みそクルクル〜

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★ぬか床のしくみ
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↑クリックすると見やすくなります。
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ぬか漬け日記(その37)

   あとがき
 
 二〇〇八年の五月五日から六月七日までの、ぬか漬け日記です。

 このひと月ちょっとで、ぬか漬けはすっかり暮らしに溶け込みました。ぬか床の味も出来合いそのままのものから、自分の味に変化していったように思います。

 とりあえず、あっと言う間に腐敗させてゲームオーバー、にならなくて良かった……

 漬け時間、最後の方はずっと二十四時間でしたね。夜入れて夜出すのが習慣になりました。意外としょっぱくならないです。

 研究コーナーをもう少し充実させるつもりだったのですが、素人には無理でした…… 経験と勘だけを頼りにぬか漬けをする理由が分かった気がしました。頭で考え始めたら大変だ〜

 研究・勉強は別にして、ぬか漬けを作り、食べる喜びが少しでも伝われば嬉しいなぁ、と思います。


【参考文献】
小泉武夫『くさいはうまい』
石川雅之『もやしもん』
浜本哲郎『Q&Aで学ぶ やさしい微生物学』
主婦の友社『決定版 おいしい漬け物と梅干し』
中西貴之『人を助けるへんな細菌すごい細菌』
佐々木正実『トコトンやさしいカビの本』
手づくり食品の会『手づくりしたい漬け物・保存食』小崎道雄・椿啓介『カビと酵母』
NHKの番組「ためしてガッテン」のホームページ

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posted by 柳屋文芸堂 at 12:22| 【エッセイ】ぬか漬け日記 | 更新情報をチェックする