2007年08月30日

夫婦万歳-メオトバンザイ-(その1)

   宗教行事

 私にとって恋愛は宗教なので
 旦那のためにする家事は
 全て祈りの行為
 出来うる限り美味しい料理を
 出来うる限り清潔な部屋で
 平々凡々としたサラリーマンを神とする
 ひとりぼっちの修道女

 これほど敬虔な気持ちで作った
 私の料理に
 旦那は軽々しくケチをつける
 カレーはどうも味が濃いようだね
 カレー粉の量に気を付けなくては
 サラダは悪くないけれど
 高い食材を無闇に使ってはいけない
 確かに僕はラディッシュが好きだが
 あ、床にほこり
 最近掃除機かけたかい?

 神経質な男を選んだのは
 私の罪だと
 分かってる
 分かってる
 分かってる
 けど

 私は私の神様を
 ぽかり
 と殴った
posted by 柳屋文芸堂 at 10:33| 【詩】夫婦万歳-メオトバンザイ- | 更新情報をチェックする

夫婦万歳-メオトバンザイ-(その2)

   子犬メソッド

 旦那は私のおでこの毛を愛していて
 絶対に剃ってはいけない
 などと言いながら
 フサフサと優しく撫でる
 私は子犬になった気持ちで
 ウーッ、アフッ!
 と軽く吠え
 ゴロンと仰向きになり
 あなたを全面的に信用していますよ
 あなたにならいくら攻撃されたって構いませんよ
 と体で示す

 おでこの毛の一本一本から
 何やら伝わるのか
 一撫でごとに旦那の顔から
 トゲトゲしたものが抜けてゆく
 私は愛している
 愛されている
「女として」ではなさそうだけど

 愛されるにはどうすれば良い?
 と尋ねる人がもしいたら
 私は餌付けをおすすめする
 愛する人の一番好きなものを
 最高の味付けで提供する
 精神? 肉体?
 馬鹿馬鹿しい

 子犬は割と現実的
posted by 柳屋文芸堂 at 10:29| 【詩】夫婦万歳-メオトバンザイ- | 更新情報をチェックする

夫婦万歳-メオトバンザイ-(その3)

   カボチャ心中

 緑黄色野菜を食べなくちゃ
 旦那の健康
 私の健康
 体内環境整えなくちゃ

 しかしふと気付く
 仕事もせず
 子供も産まず
 小説も上手に書けず
 毎日カボチャばかり煮ていたら
 私の存在価値はゼロになってしまう
 と

 旦那は確信に満ちた様子で首を振り
 私を見つめ
 はっきり言った

「そんな事はない
 僕を生かしている」

 高脂血症、糖尿病
 脳疾患に、心臓病
 全て私の料理しだい

 生命維持装置と生命は
 同じ食事に舌鼓を打ちながら
 ゆっくりと
 心中の準備をしている
posted by 柳屋文芸堂 at 10:24| 【詩】夫婦万歳-メオトバンザイ- | 更新情報をチェックする

夫婦万歳-メオトバンザイ-(その4)

   海原雄山夫婦

 美食家を
 軽蔑していたはずだった

 確かに我が家では
 キャビアとトリュフとフォアグラをごはんの上にたっぷり載せ
「今日のお昼は世界三大珍味丼よ〜」
 なんて事はしない

 しかし
 だしの素を使わず
 かつお節でだしを取り
 粉チーズを使わず
 パルミジャーノ・レッジャーノをすりおろし
 サラダ油より
 エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルや
 ごま油を多用し

 全てささやかではあるけれど
 明らかな贅沢
 食いしん坊の旦那と
 拒食癖のある自分のための

 美味しいと感じながら食事をするのが
 私には難しい
 不眠症の人が
 普通に眠れないのと同じ

 海原雄山さん
 ブリア・サヴァランさん
 北大路魯山人さん

 罪悪感は無かったですか
 お金についてじゃなく
 美食そのものに

 私は少しあるけれど
 生きるために必要なので
 やめられません

 旦那も喜ぶしね
posted by 柳屋文芸堂 at 10:19| 【詩】夫婦万歳-メオトバンザイ- | 更新情報をチェックする

夫婦万歳-メオトバンザイ-(その5)

   結婚物語

 結婚なんてしないと思っていた

 たとえしたとしても
 ベランダの柵から身を乗り出し

「ここから落ちて死んでやる!」
「やれるもんならやってみろ!」

 と無意味で病的な喧嘩を繰り返し
 毎回110番通報されるような
 壮絶な夫婦生活を想像していた

 それがどうだ
 ふわふわのロングスカートに
 真っ白いひらひらエプロンを重ね
  
「おかえりなさい
 寒かったでしょう?
 今日はあったかいシチューだよ
 にんじんもじゃがいもも
 ほろほろ崩れるくらい
 よく煮えてる」

 なんて
 にっこり笑ったりして

 夢より
 作為めいている
posted by 柳屋文芸堂 at 10:15| 【詩】夫婦万歳-メオトバンザイ- | 更新情報をチェックする

夫婦万歳-メオトバンザイ-(その6)

   エンゲル係数

 恋は甘いねと苦い顔で
 つぶやいた
 恋も愛も性も覚えず
 スクルージのように一人静かに暮らすはずだった
 あなた

 許しておくれ

 料理にやたらにナンプラーを入れる事を
(あの臭いがたまらないんだ!)
 豚汁やミネストローネを必ず十五人前ほど作ってしまう事を
(鍋が大きいからついねー うちは二人家族なのに)
 成城石井に行くたびに変わった食材を買ってしまう事を
(インドの小麦粉アタなんて使うの私くらいじゃないか?)
 紅茶やハーブティーを常に十種は用意している事を
(喫茶店かよ!)

 こんな風に
 あなたについての詩集を出してしまう事を

 この
 狂気すれすれの
(食費であっぷあっぷの)
 甘過ぎる生活に

 もう
 慣れましたか?
posted by 柳屋文芸堂 at 10:08| 【詩】夫婦万歳-メオトバンザイ- | 更新情報をチェックする

夫婦万歳-メオトバンザイ-(その7)

   あとがき

 大好きな詩人が沢山集まる、東京ポエケットに参加したいな
 そのためには詩集を用意しなくちゃ
 ……詩を読むのは好きだけど、書けない
 のろけの詩なら書けるかも
 私にとって一番大事な家事である、料理とからめてみよう

 そんな思いつきから生まれたこのミニ詩集、いかがでしたでしょうか?
 たった六つの詩でもけっこう苦労しました。何せ詩のファンなだけで詩人ではないので。
 内容について、
「旦那のためにいそいそと料理を作り、それに喜びを感じるなんて、ずいぶん古風な暮らしをしているなぁ」
 とあきれる人もいるかもしれませんね。
 誤解を受けると困るので一応書いておきますが、
「女は家庭に入るべきだ」
 と主張したい訳ではありません。
「こんな愛の形もあるよ」
 というのを表したかっただけです。
 私と旦那は家事と仕事を分業して、どうにか家庭を維持しています。本当なら、二人平等に家事と仕事の両方やるのが一番だと思うのです。でも二人とも不器用で出来なかった。単にそれだけなのです。
「美味しいものを食べさせる」
 というのは、男女関係なく強力な愛情表現になると思うのですが、どうでしょう? その分無理強いされるとかなり嫌な気がしますね。
 この詩集を無料配布するのも無理強いの一つだったりして。ううむ。もし気に入らなかったら、適当に資源ゴミにして下さいませ(ポイ捨てはダメよ!)
 読んでくれた人が嫌な気分にならず、ちょっとでもクスッと笑ってくれたりしたら良いなぁ…… と祈りつつ。

   柳田のり子
posted by 柳屋文芸堂 at 10:04| 【詩】夫婦万歳-メオトバンザイ- | 更新情報をチェックする