2007年08月17日

ど素人料理談義(その2)

二、我が家の和風だし問題

 私はよく、かつお節でだしを取る。
「鶏ガラスープを取ったり和風だしを取ったり、アンタんちはスープばっかりかい!」
 と突っ込まれそうだが、和風だしはスープ以外の料理にもよく使うのだ。
 例えば、きんぴらごぼう。私はこれを料理を始めて三日目に作った。泥付きゴボウをたわしでゴシゴシ洗い、カブトムシのような土の香りを満喫してから、おもむろにまな板の前に立つ(壁に飛んだ泥水の跡は、見て見ぬふり)そして「ゴリン、ゴリン、ゴリン!」と五センチほどの長さに切り、それを薄切りにしようとした所で、ふと気付いた。
「ゴボウは上級者向けの野菜なのではあるまいか」
 まず当たり前だが、他の野菜に比べると、かなりかたい。その上細いので、均等に薄切りするのが難しい。さらに作業効率とは関係ないが、まな板周りがくずとアクにまみれる。
「う〜ん」
 チマチマとしか進まない千切り。きんぴらごぼうをメニューに選んだのは失敗だったか? しかし途中でやめる訳にはいかない。私はベテラン主婦の十倍くらいの時間をかけて、ゴボウとニンジンの千切りを終えた。これを赤とうがらしと一緒にごま油で炒め、油がなじんだら、しょうゆ・砂糖と一緒に和風だしを流し入れる。
「汁がなくなるまで煮れば良いのね。なーんだ、千切りの後は簡単じゃん!」
 しかし。カップ半分のだしが全て蒸発するにはけっこうな時間がかかる。時々混ぜなければいけないので、その間はほとんどフライパンから離れられない。
「やっぱり手間のかかる料理だったのね……」
 またもや長くなる調理時間。けれどもその甲斐あって、薄茶色に光る、味わい深いきんぴらごぼうが出来上がった。
「お。ちゃんとキンピラらしくなってる!」
 ダーリンも、背広のままフライパンの中をのぞいて驚いている。(この日は帰宅時間にギリギリ間に合ったのだ)食卓に並べ、ごはんと一緒に食べると、由緒正しい日本の味が口いっぱいに広がる。私もなかなかやるじゃないか。
「自分で作っておいて言うのもおかしいけど、美味しいねえ」
 ダーリンは満足げにうなずく。
 が。
 その穏やかな表情に、すっと影が差した。
「でも……」
 でも? でも何さ。
「何か変なにおいがする」
 野菜はその日に買ったものである。さらに料理三日目。調味料さえ新品なのだ。私は原因を突き止めるべく、きんぴらごぼうを作る工程をダーリンに説明した。
「水じゃないかな。ここの水道の水、変な味がするなあって、引っ越してきた時から思ってたんだ」
 全然気付かなかった。水の良し悪しを判定出来るほど、私の舌は繊細じゃないのだ。
「だしを煮つめた時に、水の中の有害物質が凝縮されちゃったんだよ、きっと」
 あんなに頑張ったのに。美味しく出来たと思ったのに。自分の技術とは関係ない所で、料理がマズくなっていたなんて。
 あまりに悔しかったので、その後だしを取る時には、ミネラルウォーターを使う事にした。浄水器を付けよう、という話もあったのだが、様々な不便が生じる(お湯が使えなくなる、など)と知って悩んでいるうちに、立ち消えになってしまった。水道水を使わなくなった途端、予想通り「変なにおい」が消えたので、水道の水質が話題に上る事もなくなったのだ。
 だしの利いた和食の並ぶ食卓。その裏で、私の静かな奮闘があった。値段が安いので、ミネラルウォーターは箱入りを買う。二リットル×六本で、十二キロ。私は車を運転出来ないので、これを自転車で運ばなければならない。
「父ちゃんのためならエンヤコラ〜」
 いや、箱の上げ下げで腕が疲れるのは別にかまわないのだ(そりゃちょっとは大変だけど)走り出してしまいさえすれば、自転車の乗り心地も普段とそう変わらない。バランスだってちゃんと取れる(微妙にヨロヨロするけど)
「ミネラルウォーターを荷台に載せ、ひもを巻き、発進する」
 そのちょっとした動作が、怖いのだ。
 私は一つの事に集中すると、周りが全く見えなくなる。ミネラルウォーターを買い始める少し前にも、自分の荷物に気を取られて、スーパー前の自転車をドミノのように倒しまくった事があった。そばで見ていた見知らぬ女性にきつ〜く叱られたのもつらかったが、「荷物を載せて自転車を無事発進させる」というただそれだけの事が出来ない自分がとにかく情けなくて、家に帰ってからシクシク泣いた。そんな事で泣いてしまうのもまた情けないが、まあ私はそういう弱い人間なのだ。
 にもかかわらず、十二キロ。ミネラルウォーターを買うたびどれだけ不安になり、どれだけ心臓をバクバクさせるか、想像するのは簡単だと思う。
「ヘマをしませんように。周りに迷惑をかけませんように。叱られませんように」
 もうほとんど「祈り」に近い。
 そうやって苦労して手に入れた「水」である。美味しいだしを取らなきゃやってられない。かつお節の入った鍋に、一滴も無駄にしないよう注意しながら注いでゆく(もちろん、たまにこぼす。どんなに注意しようと不器用な人間は失敗するのだ)そしてごくごく弱い火にかける。激しく煮立たせてしまうとだしが濁り美味しくなくなるので(自分だけが食べる昼ごはんで実験済み)その防止のためだ。時間はかかるが、野菜や肉の下ごしらえにもっと時間がかかるので、何の問題もない(本当にないのか?)
 水ほどでもないが、かつお節についてもそれなりに苦労した。最初は薄く削ってある花かつおを使い、鶏ガラスープと同じようにキッチンペーパーをしいたザルでこしていた。しかしこれだと洗い物が増えるので(ザルとボール)目の細かい網で出来たお玉のようなものでかつお節を取り除くようになった。これはもともとアク取り用で、スープを無駄にしないために購入したのだが、いつの間にか「かつお節すくい専用」みたいになってしまった。
 花かつおを一袋使い切った頃、業務用スーパーで業務用だし(かつおだけでなく、サバなども入っているミックス削り節)を見つけたので、試しに購入してみた。それだけでやめておけば良いのに、同じ棚にあった「にぼし粉末」というものも、ついついカゴに入れてしまった。これは小麦粉なみに細かくなっているにぼしの粉で、袋の裏の説明によると、水に入れて沸騰させればそのままだし汁になるらしい(何もすくう必要がない)
「そんなうまい話があるのかなあ……」
 はい。ありませんでした。粉になってもにぼしはにぼし。水に溶けるはずもなく、かつお節の澄んだだし汁に慣れた身には、粉っぽさが気になって仕方ない。そのまま食卓に出すのが申し訳なくて、「網お玉」で粉をすくう羽目に。
「かつお節より手間がかかるよ、こりゃ……」
 またまた長引く調理時間。しかもこの粉、一回に大さじ一杯しか使わないのでなかなか減らない。業務用スーパーの割には量が少ない(二〇〇グラム)のが救いだが、一キロ入りとかだったら最初から買わずに済んだかもしれない。
 業務用だしはかつお節と同じ感覚で使え、だし汁もなかなか美味しかった。ただ「骨が混ざっている可能性があります」という注意書きが気になって、「網お玉」作業が長引く事が多々あった。
 業務用だしがなくなった後、骨のない花かつおに戻してみたりもしたが、最近は厚削りのかつお節に落ち着いている。同じ業務用スーパーで売っていたもので、かつお節の一枚一枚が大きく、「網お玉」を使わずに箸で取りのぞける。
 実はこれ、『みんなの定番&きほんの料理』という本で推奨されていたやり方なんだよね…… 結婚前から持っていた本なんだから、始めから迷わず厚削りを選べば良かった。
 ま、試行錯誤してこそ成長する、って事で。……本当かなぁ?

☆にぼし粉末その後☆
 さて、始末に困ったにぼし粉末。かつお節でだしを取る時にちょこっと混ぜたりして減らしていったが、まだ半分くらい残っている。ダーリンは、
「お好み焼きをする時に入れちゃえば良いよ!」
 と言うけれど、我が家にはホットプレートがないのでお好み焼きを作る機会がない。(フライパンで焼いたら楽しみ半減、という気がするのは私だけ?)カルシウムも摂れるし、良いアイデアなんだが。
 う〜ん。
 ハッ、ひらめいた!
「これでけんちん汁を作ってみよう!(大した思いつきじゃなくてごめんなさい)」

一、まず、大きな鍋にごま油をひいて余り物の野菜(大根・にんじん・白菜など)を炒める。
二、その間、小さな鍋(いや、本当は大きい方が良いのだけど、前にも書いたようにうちには大きな鍋が一つしかないのだ)にたっぷり水を入れ、にぼし粉末をザバザバ投入し、火にかけておく。
三、持ち手の付いたザルにキッチンペーパーをしく。
四、野菜があらかた炒まったら、右手にザル、左手に小さい鍋を持って、にぼし粉末をこしながら大きな鍋にだし汁を注ぐ(この工程の事を考えると、やっぱり鍋は小さくなきゃいけないのかも)

 こんな悩み交じりのレシピがあるかい! と、つい自分でツッコミを入れたくなるな。しかし悩み入りなのには訳がある。このやり方でけんちん汁を作った時、にぼし粉末を思いっきり吹きこぼしたのだ。水と混ざったにぼしの粉でガス台はドロドロ。火を弱くしていたので焦げなかったのが不幸中の幸いだった。
 アクシデントに見舞われつつも、完成したけんちん汁。うどんを入れて食べてみると、これがなかなか美味しかった。キッチンペーパーでちゃんとこしたので当然粉っぽさはなく、にぼしの濃いだしがごま油の風味とよく合っている。
 そしてどんぶり二杯分使っても、まだ鍋には大量の汁が!
 いくらにぼし粉末を減らしたいからって、吹きこぼすほどだし汁を作る必要はなかったのだ。
「やりたい事」と「やれる事」の差を見極めるのが今後の課題、かもしれない。
 いやその前に「大きい鍋をもう一つ買え!」だな…… 
posted by 柳屋文芸堂 at 10:41| 【エッセイ】ど素人料理談義 | 更新情報をチェックする