2007年08月17日

泥の小舟(その4)

四、八月二十九日

 あれから一ヶ月経った。
 京介さんが死に物狂いで拾って来た仕事で、岡田工業はなんとか立て直した。だから弓子さんと社長はまだ生きている。
 生産する製品が少し変わっただけで、あとは何も変わらなかった。
 あの危機を乗り越えた事で、ラヴィアンローズのおばちゃんたちの労働意欲はさらに向上した。恐ろしい事だ。
 五十嵐さんは笑っている。きっと倒産しても笑ったろうが。
 望月さんは相変わらずだ。望月さんは何があっても「相変わらず」だろう。
 変わった事と言えば、スゥと啓の貯金通帳くらいだ。八月二十五日にちゃんと給料が支払われたから、また残高が増えたに違いない。

 私も、啓も、まだ何も決められずにいる。
 日々の労働を丁寧にこなし、たまに空を見る。
 鳴き止まないセミの声を聞きながら、雲の高くなる日を待っている。

(泥の小舟・完)
posted by 柳屋文芸堂 at 09:53| 【中編小説】泥の小舟 | 更新情報をチェックする