2020年03月03日

翼交わして濡るる夜は(その3)

 次の日、僕はにんにくと、母親が送ってきた赤なすとベーコンでスパゲティを作った。それにトマトサラダ(トマトを半分に切っただけ)を付けてモグモグ食べ終わらせてボーッとしながら、
「司とアキラのことは忘れよう」
 と決めた。恋人か友達かは分からないけど、僕は二人と仲良くなりたかった。誰にでも感じる訳じゃない「親しくなれそうな予感」があった。でも二人そろってあんな形で僕を侮辱するなんて許せない。脳の記憶領域を二人のために使いたくない。消去! 完全に消去! 向こうはとっくに僕を忘れているだろう。そう思うと涙がにじんだ。
 ひどい経験ではあったけれど、しょせんは二度会っただけの人たちだ。一週間もすると怒りは薄らいだ。半導体に光を当てて電力を発生させる実験のレポートを書いていたら小腹が空いたので、司のチョコレートを出して食べた。いかにも高級そうな、濃厚で苦い味がした。僕はそれを「一個十円!」と思いながら飲み込んだ。
 一ヶ月くらい経った後だろうか。司からメールが来たのでびっくりした。

 アキラって翼の知り合いなんだよね?
 すごく良い人だね。
 毎週末に会ってます。

 いやいや別に知り合いじゃないし! 君もろとも記憶から消したし!(全然忘れてないけど)あれだけ人を傷付けておいて、のんきな文章を送ってくる無神経さに腹が立った。
 しかしそれよりも、アキラを「良い人」と呼んでいるのが気になった。「楽しい人」ならともかく、ああいうタイプを「良い人」と感じるなんて、人間観察力が足りないんじゃないか。
 素敵だと思っていた司をけなすなんて嫌だな。僕はアキラに嫉妬しているんだ。……そうかな? 何か引っかかり、なるべく冷静になってもう一度考えてみた。
 僕はアキラをよく知らない。でも、僕の手に負える相手じゃないことくらいすぐ分かる。司はどうなんだろう? 僕は司のこともそれほど知らない。胸がざわざわする。
 司はアキラと対等に付き合えるような人間なのだろうか?


posted by 柳屋文芸堂 at 10:50| 【長編小説】翼交わして濡るる夜は | 更新情報をチェックする
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