2020年03月03日

翼交わして濡るる夜は(その14)

 光一との性的な関係は高校を卒業するまで続いた。受け身でいても罪の重さは変わらないと観念したのか、途中からは積極的に僕を気持ち良くしてくれるようになった。どれだけ快楽を共有しても、僕たちは全く対等ではなかった。光一は常に僕の言いなりで、それに腹を立てて僕はさらにわがままを言った。いい加減にしろ、と光一は怒るべきだったと思うし、それを望んでいたからこそ、わざと酷いことも言ったのに、最後まで光一は本心を隠し続けた。そして時々、僕の体をきつく抱き締めて、
「逮捕されたら、面会に来て欲しい」
 と懇願した。光一は逮捕なんてされない、親に言いつけたりしないし、たとえバレたとしても光一が思うほどうちの両親は過保護じゃないし同性愛にも理解がある、といくら言葉を尽くしても無駄だった。
「実際に面会に来られなかったら、魂だけでも良いから会いにきて欲しい」
 なんて訳の分からないことを言い出す。
「君が来てくれると信じられたら、実際には来てもらえなくても、この恐怖に耐えられるかもしれない」
 光一はまるで僕につかまっていないと深い穴に落ちてしまうかのように、必死に僕にしがみついた。
 結局僕たちの関係は誰にも知られず、光一が逮捕されることもなかったけれど、光一が恐れていた事態を今なら想像出来る。光一は少年に性的暴行をした犯罪者として、実名や顔写真がニュースで流される。親や周囲の人たちに最悪の形でゲイバレして、会社もクビになる。一方で僕は未成年の被害者として、名前も顔も表に出ないのだ。
 僕に抱きつかれてドキドキしたことにさえ罪悪感を抱いた、気の小さな光一。ただ一度だけ性欲を我慢出来なかったがために、社会的に破滅させられることをどれだけ深く苦悩したのか、僕の測れる範囲を超えている。
 罪を犯したのは僕だ。高校生であることを利用して、安全な場所に立ったまま、光一の体で性欲を解消した。正確に言うと性欲は解消しなかった。すればするほど自分が本当に欲しいものがそこにないことがはっきりした。光一は完全に心を閉ざしていた。当たり前だ。
 光一が言ったように「友達」になっていれば、僕たちはもっと気分良く付き合えたのかもしれない。物語を恐れるようになった司の話も興味深く聞いてくれたはずだし、司の苦痛を和らげる方法を一緒に考えてくれただろう。
 あんなに苦しめておきながら、あんなに疎ましく思っていながら、僕は光一が与えてくれた愛情を頼りに生きていた。光一。僕はいまだに誰ともつながれないまま暮らしているよ。光一はきっと僕を許してくれないから、僕の罰は一生終わらないのかもしれないね。


posted by 柳屋文芸堂 at 10:39| 【長編小説】翼交わして濡るる夜は | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。