2020年03月03日

翼交わして濡るる夜は(その16)

 その日は疲れてすぐに寝てしまった。
 次の日もまた二人で初心者用コースに行き、僕は馬鹿みたいに「ハの字で蛇行」を繰り返した。
「上手くなったね。全然転ばないし」
 ケガしないことを第一に考えてやっているのだから当然だ。
「司、僕に付き合ってここにいてもつまらなくない? 上級者向けのコースに行ったら?」
 司は首を振る。
「翼見てると面白いよ。おもちゃみたいで」
「おもちゃ?」
「体まっすぐ伸ばして真剣な顔で降りて来るからさ。おもちゃの兵隊がスキーしてるみたい」
 変な色のダサくてボロいウェアを着て、みっともないスキー姿をさらし続けるって何の罰ゲームなの…… でもスキー場に来てから、司は今まで見たことないほど楽しそうにしている。体を張って司を元気にしていると思えば。僕はこういうことがやりたかったのかなぁ。うーん……
 白い地べたにサインかコサインのグラフを描きながら、僕はゆるやかに落下する。行き着く先には必ず司の笑顔が待っていた。


posted by 柳屋文芸堂 at 10:37| 【長編小説】翼交わして濡るる夜は | 更新情報をチェックする
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