2020年03月03日

翼交わして濡るる夜は(その21)

 次の日は晴れて、僕たちは最後のスキーを楽しんだ。その次の日、朝のうちに宿を出て、新幹線で東京に帰った。
「ずっと一緒にいたから、翼と離れるの寂しいな」
「またうちにおいでよ。泊まったって良いし」
「翼の家、サービス良過ぎて申し訳ないからなー 今度から宿泊費取って」
「考えとく」
 笑って手を振って別れたのに、自分の部屋に帰るとすぐ、僕は布団にもぐり込んで泣いた。僕たちの関係はもう行き止まりだ。これ以上進みようがない。司は僕のことを必要としてくれているし、ファンになるとまで言ってくれた。これで満足すべきなんだ。どうして「やりたい」なんて思っちゃうんだろう。
 生きているのだから食欲や性欲を感じるのは当然のことだし、男が好きなのも、少数派の方に入っちゃったんだなと思うだけで他の人ほど悩んだりしない。でも司を前にすると、自分の欲望が汚い、余計なものであるような気がしてくる。そんな気持ちになるのが嫌だった。
 それは結局、司が僕の性欲を必要としていないせいだ。僕は司が求めるものだけを差し出したい。性欲はどこかに捨ててこなければ。
 床の上で携帯電話が震えている。拾い上げると、司からのメールだった。

 翼が隣にいないと寂しい。

 僕も。

 まるで恋人同士みたいだ。もしかしたらもう、プラトニックな恋人なのかもしれない。そしてそんなものでは、僕の心と体は全然満たされないのだ。


posted by 柳屋文芸堂 at 10:29| 【長編小説】翼交わして濡るる夜は | 更新情報をチェックする
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