2020年03月03日

翼交わして濡るる夜は(その27)

 普通って何だろう。男が好きな男という意味では、周平さんも、メグさんも、僕も、司も、アキラも、カツミという人も、みんな普通とは言えないんじゃないか。しかしこれだけ沢山いるのだから、もうそれは普通なのかもしれない。少数派も集まれば多数になって、その中にいる限りマイノリティであることを意識しない。
 アキラにデコピンしたり、レジの下を蹴ったりするからカツミさんは異常なのか。でも僕はアキラにデコピンより酷いことをしてやりたいし、イラッとした時にどこかを蹴ったりぶったりする人を東京に来てから何度も見た。僕はやらないけど気持ちが分からない訳じゃない。
 周平さんに反感を、カツミさんに親しみを感じている自分に気付く。あんなに醜くて痛々しいのに……
 それから日曜日のお昼に春樹カフェへ行くと、必ずと言って良いほどアキラとカツミさんに会うようになった。僕の好意が伝わったのか、それとも単に気に入られたのか、カツミさんは僕を見つけると邪気のない笑顔で手を振ってきた。不健康な今の姿に可愛かった頃の顔が重なって見えて、そのたび胸が苦しくなった。
 アキラはカツミさんを大切にしていた。何より視線が優しかった。カツミさんを煩わすようなことが起きないか、いつもそちらに神経を集中しており、僕にはあいさつをするくらいでほとんど注意を向けなかった。
 ある時、カツミさんは僕の手を握り、
「おれが他の男と仲良くしてるのに、怒らないの?」
 とアキラに言った。
「俺、嫉妬ってよく分からないんだ」
「つまーんなーい」
 アキラは悲しそうだった。カツミさんが求めているものを全部そろえて目の前に出してあげたいのに、何故自分にはそれが出来ないのだろう。そんな瞳でカツミさんをじっと見つめた後、メグさんが作ってくれたサンドイッチを食べた。一口に入れる量が多く、気持ちの良い食べっぷりだった。
 僕たちのやり取りを、周平さんは少し離れた場所から絶えず監視していた。穏やかないつもの表情とは全く違う、キツい目つきが怖かった。
 この三人には僕の知らない深い因縁があるのだろう。とりあえず僕が気にしなければいけないのは、アキラがカツミさんを愛しているということだけだった。
 司は今度こそ本当に失恋したのだ。


posted by 柳屋文芸堂 at 02:21| 【長編小説】翼交わして濡るる夜は | 更新情報をチェックする
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