2019年12月21日

この万年筆でいったい何を書くつもりなんだ(その5)

五、万年筆を選ぶポイント

 万年筆はその人の使い方によって、必要なものが違ってくる。ここはもっと気を付けた方が良かったと反省する部分もあるので、簡単にまとめてみる。

☆クリップ
 メモ帳に付けて使う場合は絶対必要だと思うが、クリップのない万年筆も割とある。買った後で、
「クリップないじゃん!」
 とならないようにご注意を。
 クリップはあっても華奢だとすぐ壊れるので意味がない。ボールペンの場合、まずここから壊れるので、クリップをよく見て頑丈そうなものを選ぶようにしていた。

☆キャップの開け方
 くるくる回して開ける「ネジ式」と、カチッと外せる「嵌合式」がある(私は使ったことがないのですが、最近はキャップレスも人気)
 ペン先のインクを乾燥させないため、気密性の高いネジ式のものが非常に多い。さっと取り出してさっと書きたい時に、ネジ式キャップはけっこう面倒くさい。
 手紙や小説書きなど、じっくり長時間書き続ける(頻繁にキャップを開け閉めしない)場合は、それほど気にならないと思う。万年筆を何に使うかよく考えて選ぼう。

☆字幅
 外国メーカーの字幅は「細字」と書かれていてもけっこう太い。ネットではなく、自分で試し書きして選ぶことをおすすめする。
 どこにどんな大きさの字を書きたいかで、必要な字幅は変わってくる。手帳は細字、便箋はやや太字が便利。

☆ペン先の形状
 基本的に、金を含むペン先は高価で、それ以外のペン先はお手頃だ(数万円するのに金ペン先でない万年筆もある。買う前に確認を)
 合う合わないはその人の書き癖による。高ければ書きやすいとも限らない。
 ただ価格が高いもの、字幅が太いものほど、弱い筆圧で済むという傾向はありそうだ。
 私はごく普通のタイプを買ってしまったが、長刀研ぎ(先端が細長く削られている)やフォルカン(柔らかく、字幅を変化させやすい)など、特殊な形のペン先を試してみるのも良いかもしれない。

☆軸の指が当たるところ
 パイロットの「カクノ」やラミーの「サファリ」は持ちやすい形になっているが、逆にこれが指に合わないという人もいると思う。キャップをかぶせるための段差が手に当たって痛い、という商品もあるそうなので、よく確認しよう。

☆軸の尻
 ここにキャップをかぶせられないペンもある。私は気にならないが、わざわざ削ってかぶせられるように改造する人もいるらしい。
 賀茂なすと京てまりは軸の尻にキャップを付けると重心がちょうど良い場所にくるよう作られている。カヴァリエはキャップを付けない状態が一番バランスが良い(尻に付けると重心が上にきて重い)
 ふだん何か書く時、キャップを尻に付けるか、そこらへんに転がしておくか。意識してから選ぶと、より使いやすいと思う。

☆メーカー
 万年筆は自社のインクで最も書きやすいように調整されている。別のメーカーのインクも使えるが、トラブル(インクが出ない、かすれるなど)もあると聞く。まず使いたいインクがある場合、そのメーカーの万年筆を選んだ方が安心だ。パイロットの「色彩雫」インクが使いたければ、パイロットの万年筆を買う、というように。
 セーラー万年筆は常時販売している純正インク以外に、ご当地インクなども手がけていて、幅広い選択肢があり気に入っている。

☆インク
 万年筆と同様にインクも魅力的なものが次々発売され、物欲が刺激されるが、製造から二、三年で品質が低下するそうなので、まとめて買い過ぎないよう気を付けよう。
 インクの色は写真に撮ったり印刷したりすると、ずいぶん印象が変わってしまう。ネット公開された色見本で気に入り、店に行って試し書きしたら全然違う色でガッカリしたことも。
 インクも万年筆も、ネットで済ませず実物に触れるよう、要求してくるところがありますね。

☆なんだかんだで見た目が大事
 ここまで書いた条件を全て満たす万年筆があったとする。それはあなたにとって一番の万年筆になるだろうか。
 一流企業に勤め、家事も育児もやってくれる、話のつまらない醜男と暮らせるか、という話です。派手な見た目の暴力夫に貢ぐ女を私は止めない(おまわりさ〜ん!)
 賀茂なすと京てまりはネジ式キャップで書き始めるまでに少し時間がかかるけれど、この二本がこれほど可愛くなかったら、万年筆に夢中になり、こうやって万年筆についての文章を書くこともなかったと思う。
 カヴァリエは古い特殊合金ペン先で、筆圧をかけないとインクの出が悪い。けれども長年放置した後に、壊れず生き返ってくれたことが嬉しくて、その書き味さえ愛おしい。「復活した騎士」といういわれが付いたのも、中二病的で悪くない。

 そう、万年筆は物語なのだ。



  あとがき

「弘法筆を選ばず」ということわざがあるのは、それだけ筆を選ぶ奴が多かった証拠だろう。みんな弘法大師ほど立派じゃないしわがままだ。ペンがちょっと使いにくいだけでイラッとするし、もっと良いものはないかと右往左往する。
 逆に言えば、それだけ道具によって気持ちを盛り上げることも可能なのだ。新しい世界を教えてくれる道具は確かに存在する。

 私が子供の頃は、万年筆で漫画を描いてはいけないと言われていた。最近は万年筆でイラストを描く人も多いようだ。
 この三十年で何があったのだろう。パソコンが普及し、画材を使って絵を描く人が減り、安くて性能の良い万年筆が買えるようになった。Gペンを使いこなすのは大変だったから、描きやすいペンで楽しく絵が描けるのを羨ましく思う。

 ここ数年、パソコンやスマートフォンでの作業を減らしたいと思っていた。画面が時間を吸い取っていくのが嫌だった。時間を忘れる作業は他にもあるが、電子機器をいじっている時の時間の消え方は独特だ。自分でコントロール出来ない気がする。
 文字を手書きすれば、指の疲れが時間の経過を教えてくれるのではないか。時間を消されるのではなく、時間を感じて時間と共に歩めるようになるのでは……
 そんな希望を抱いて、次の小説は万年筆で書いてみようと考えている。

 文章で絵を描こう。そう決めて私は絵を描くのをやめたのだ。
 表現方法が変わり、道具が変わっても。
 自分が描きたいものだけを、私は描き続ける。

【参考文献】
「万年筆のすべて」エイムック
「趣味の文具箱 vol.43」エイムック