2014年10月11日

邯鄲(その3)

「治さんとデートしたいの」
 お見合いの数日後、私は思い切って静子さんに相談した。
「たぶん大丈夫だと思うけど、一応お父さんに許可をもらった方が良いわね」
 お見合いの日は、五分おきくらいに静子さんが部屋をのぞきに来るので、聞きたいことを全然聞けなかったのだ。知り合いが誰もいない遠くの街へ行き、落ち着いて話がしたかった。
「いかがわしい場所に連れ込まれそうになったら、一目散に逃げるのよ」
「いかがわしい場所って?」
「ほら、休憩するためのお宿があるでしょう」
「そんなとこ行かないわよ!」
 顔がかぁっと熱くなる。
「春子ちゃんが行こうとしなくても、男の人の腕力は強くてとても抵抗出来ないのだから、用心しなきゃダメよ」
 急に怖くなってしゅんとする。
「もしおかしなことをしたら正太さんの工房をクビになるし、治さんも自制してくれると思うわ。出端をくじくようなことを言ってごめんなさい」
 謝りつつなお、きちんと籍を入れるまでは節度あるお付き合いをするよう、くどくどしく繰り返してから、静子さんはデートの段取りをつけると約束してくれた。
posted by 柳屋文芸堂 at 23:50| 【中編小説】邯鄲 | 更新情報をチェックする