2014年10月11日

邯鄲(その5)

 電車から降りると、沈む直前の太陽が町を赤く染めていた。
「日が伸びたわねぇ」
 治さんは突然足を止めた。
「やべっ。佐山のババアだ」
 バス停に、近所で農家をしている佐山さんが立っている。
「オレ、歩いて帰るから!」
 そう言いながらもう、治さんは百メートル走のスピードで駆け出し、いなくなってしまった。
 バスの中でも一緒にいられると思ったのに。佐山さんの畑からネギでも盗んだのかしら。行儀良く一列に植わっているのを見ると、こっそり二、三本引き抜いてお鍋に入れたくなったりするけれど。
posted by 柳屋文芸堂 at 23:48| 【中編小説】邯鄲 | 更新情報をチェックする