2014年10月11日

邯鄲(その17)

 農家の出身だからか、和紙に植物を使うためか、花はよく見ているようだった。
「ツツジが咲いたな、周平」
「そうだね」
 しばらくして、
「紫陽花が咲いたな、周平」
「そうだね」
「オレは何十年も生きてっけど、ツツジより先に紫陽花が咲いたことはたぶんねぇよ。誰かが起こしに行く訳でもねぇのに、すげぇな」
「……」
 そんな答えようのないことを言っては、口笛吹いて機嫌よく作業場に降りてゆく。親子とはいえいまいち噛み合わない人だ。
 父親にメグの話はしていない。母は読書家で、世間に多様な価値観があることを知っていたから、僕たちのことも理解しようと努めてくれた。しかし父親は、愛というものをどうとらえているのかさえ全く推測出来ない。僕たちがどんなに真剣に愛し合っていても、男と男の恋愛は父親にとって、不自然で受け入れ難いものなのではないか。冬に咲くひまわりのように。
posted by 柳屋文芸堂 at 23:37| 【中編小説】邯鄲 | 更新情報をチェックする