2014年10月11日

邯鄲(その21)

 広く知らせたつもりもないのに、お通夜には数百人の人が集まって呆然とした。母は生涯をこの町で過ごしたので、知り合いも多かったのだろう。
 おじいさんが町で一番大きな製紙工場を経営していたのも、関係があるのかもしれない。会社は伯父の代で潰れたけど。伯父さんは夜逃げしてしまい、音信不通だ。
「周ちゃん!」
「タツヤくん」
 年甲斐もなくドキンとしてしまう。タツヤくんは僕の幼なじみだ。
「おばさん、もう少し生きて欲しかったなぁ」
「病気もあったしね。それより今日のお通夜のこと、どうやって知ったの?」
「母親から連絡があった」
「何も言ってないのに来てくれる人が多くて驚いてる」
「おばさんどこで亡くなった?」
 病院名を言うと、タツヤくんは苦笑いした。
「あそこで死ぬと次の日には町中に広まるんだよ。中に拡声器がいるんだろうな」
「それマズいんじゃないの……」
 棺の中の母は綺麗にお化粧されていた。顔色の悪さを隠すためとはいえ、授業参観にさえ口紅一つ塗らずに来た母が、こんなおばあちゃんになって厚化粧されているのは不思議な気がする。僕の知らない遠くの場所に行ってしまうのだと改めて感じ、少し泣いた。
 かつての母は、化粧などしなくても十分美しかった。川岸に咲く花みたいに。
posted by 柳屋文芸堂 at 23:33| 【中編小説】邯鄲 | 更新情報をチェックする