2014年10月05日

オカマ先生の恋愛レッスン(その1)

 結局、婚姻届を出すことになってしまったけれど、これで良かったのか、いまだに迷っている。

 知り合ったきっかけは、キミヤの引越しだった。私は引越し業者に勤めていて、見積もりのために彼の部屋を訪ねた。
「お姉さん、すっごくイイ身体してるのね」
 キミヤは私の、筋肉でパンパンに膨らんでいる二の腕を見つめて言った。
「ありがとうございます」
「もしかして、荷物もあなたが運んでくれるの?」
「やりますよ。他にも何人か来ますけど」
「キャーッ ステキ!」
 グーにした手を振り回す。素なのか演技なのか、明らかにオネエキャラだった。
 引越し当日、荷物をひょいと持ち上げるたび、キミヤは目をハートにして私を見ていた。全てのダンボールを部屋に運び込み、料金の精算をする段になって、
「お姉さん、メールアドレス教えてくれない?」
「何かあればこの会社の電話番号に……」
「そうじゃなくて、あなた個人のアドレスが知りたいの。お友達になりましょ!」
 マリア様にお祈りするような格好で、ちょこんと首を傾げてみせる。不覚にも笑ってしまった。
「ねっ、いいでしょ?」
 私は会社の名刺の裏にアドレスを書いて渡した。キミヤの家を出て五分も経たないうちに、メール着信のメロディが鳴った。

 丸美って可愛い名前ね。マルちゃんって呼んでいいかしら? あたし、マルちゃんに食事をご馳走したいの。と言ってもあたしの手料理じゃなくて(笑)すっごく美味しいレストランがあってね、マルちゃんならきっと喜んでくれると思うんだ。
 引越しの間、マルちゃんに話しかけたくてウズウズしていたんだけど、スピードが早過ぎて無理だったわ(笑)あたし一人で荷造りしていたら、一生かかっても引越しが終わらなかったと思う。今日は本当にありがとう! またね。
 馬場君也より

 胸のあたりで手を振るキミヤが見えるようで可笑しかった。
posted by 柳屋文芸堂 at 21:59| 【中編小説】オカマ先生の恋愛レッスン | 更新情報をチェックする