2014年10月05日

オカマ先生の恋愛レッスン(その3)

 数日後、キミヤから小包が届いた。『オカマ先生の数学レッスン』だ。一冊の本かと思ったらシリーズもので、数学I、数学A……と科目ごとに分けられており、全部で六冊あった。問題も解説も、全てオネエ言葉で書いてある。

 サイン、コサインって一体何なの? 習ったばかりの時、あたしも戸惑ったわ。でもこのグラフを見て。ねっ、とても綺麗な波の形をしてるでしょう。
 サイン、コサインの使い方を覚えると、波の性質を考えるのに役立つってこと。音波、電磁波。光や放射線も電磁波の一種よ。地震のP波、S波は覚えてる? 世の中って波だらけ。
 つまりあなたは、世界を理解するための道具を手に入れたのよ!

 ふざけているのは題名だけで、内容は至って真面目だった。特に感心したのは、数学を現実の世界に結び付けているところだ。数学の勉強の意味を説き、受験生が虚しい気持ちになるのを防ごうとしている。

「数学なんて面倒なこと、何でやらなきゃいけないの?」
 数学嫌いの子はそう思っちゃうわよね。確かに小学校からずーっと、算数と数学を勉強するのって不思議。分数の割り算なんて、社会に出たら絶対やらないのに(笑)
 高校卒業後、特に文系に進んだら、死ぬまで数学に触れないかもしれない。理系だって、全員が数学を使う仕事に就く訳じゃない。
 でもね、こう考えて欲しいの。数学は、問題を解決する練習なんだ、って。
 生きていると、色んなトラブルにぶつかるでしょ。親と意見が合わなかったり、友だちとケンカしたり。
 そんな時は、じっくり腰を据えて問題を眺めてみる。
 どんなヒントが隠れているんだろう。
 自分に何が出来るんだろう。
 すぐ諦めてポイッと放り出しちゃう人は、一生何も得られないわよ(笑)
 あたしはすごく弱くて感情的な人間で、若い頃は悩みに押し潰されそうだった。もし数学と出会わなかったら、冷静にものを考えられなかったかもしれない。毎日泣いているだけで、何も解決出来なかったかもしれない。

 ずいぶん叙情的な数学の参考書だ。私はキミヤの姿を思い浮かべて、くくくと笑った。そして何故か少し、胸が苦しくなった。
posted by 柳屋文芸堂 at 21:56| 【中編小説】オカマ先生の恋愛レッスン | 更新情報をチェックする