2014年10月05日

オカマ先生の恋愛レッスン(その4)

「送ってくれた本、面白かったです」
 キミヤは私を自宅に招き、手料理をご馳走してくれた。ホワイトグラタンに、バルサミコ酢を使ったサラダ。予想通り、私が食べるにはもったいないほど味が良い。あんな変わったレストランに通うくらいだから、よほどの食通なのだろう。
「もう読んでくれたの?」
 キミヤはサラダのおかわりをよそって、私の前に置きながら言った。私は口の中のマカロニをモグモグ噛みながらうなずく。そしてアイスティをごくんと飲み、考える。
「数学ってさ、世界、宇宙…… うーん、どっちも意味が限定的だな」
「三千世界?」
「都々逸かよ! いや、その単語の方が正しいのか?」
 キミヤは指揮棒を振るみたいに、フォークを空中で軽く揺らした。
「この世にあるもの全部、この世に無いものも含めて全部、のこと?」
「そうそう、そんな感じ。数学ってさ、そういう『全部』を語るための特殊な言語だと思うんだ。キミヤはさ、それをみんなに伝わるように翻訳したんだね。オネエ言葉を使って」
 キミヤは見る間に真っ赤になった。
「やっだぁ〜 恥ずかしい〜っ そんな感想、初めてっ」
「他の人はどんな風に読むんだろう」
「『どんな』も『こんな』もないわよっ ウケ狙いの変な本だと思われてる。せいぜい生徒がからかい半分で『笑えました』って言って来るくらい」
「そうなんだ。ふーん。みんな分かってないなぁ。あれ、すごく良い本だよ。経済学とからめながら微分の説明をするところとか、本当に感心した」
「お世辞言ってくれたからじゃないけどっ デザート出すわよ」
 青みがかったガラスの器に、キウイや苺やパインが浮いている。シロップをすくってすすると、甘酸っぱかった。
「これ、お酒入ってる?」
「白ワインを少し、ね」
 キミヤは指先をぴんと伸ばして、パタパタと顔を扇いだ。それでも足りないのか、ワイシャツの一番上のボタンをぱちんと外す。まだ耳が赤い。
「マルちゃんって、いったい何なの?」
「何なのって言われてもね……」
 デザートも二回おかわりした。これではまるで、メシのお礼に本を褒めたみたいだ。
「次は私が奢りますよ。いつも食べさせてもらうのは悪いから」
「それは気にしないで。料理は好きなの。マルちゃんはどんなものを喜ぶだろう、って考えながら作るの、すごく楽しかった」
 お互い顔を見合わせて微笑む。
「美味しかったです」
posted by 柳屋文芸堂 at 21:55| 【中編小説】オカマ先生の恋愛レッスン | 更新情報をチェックする