2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(1/49)

 高校を卒業してすぐ、あたしは魚河岸近くの大きなお寿司屋さんで修行を始めた。実家が日本料理店をやっていたから、ゆくゆくは父親の仕事を継ぐつもりだった。一緒に入ったのは中学もまともに通わなかったというヤンキー上がりの男の子で、初日から髪が黄色いという理由で先輩に殴られていた。
 しばらくの間、みんなその子の幼さを「矯正」するのに夢中で、あたしに注意を向けなかった。その子は不貞腐れたり、仕事をサボったり、また戻って来て殴られたりしながら、気がつくと先輩たちのコピーみたいになっていた。きびきびして乱暴な、職人の男らしい男に。
 そうなると俄然あたしが目立つようになってしまう。
「キャッ、ごめんなさい」
「キャッ、じゃねえよ。気持ちわりぃな」
 その時、仕事の流れを止めていたのは明らかに先輩だった。でもあたしはすぐに謝る。厨房の外ではお客さんたちが今か今かと料理が出てくるのを待っているのだ。あたしは雑用係として一番効率の良い動き方を常に考えていたし、それを実行するには先輩の機嫌を損ねないことが何より大切だった。
「お前ってさ、要領良いよな」
「慣れてるだけです。子どもの頃から父親の仕事を手伝っていたんで」
「ナヨナヨしたところが治ると良いんだがな」
 それは絶対に無理だ。小学校や中学校のいじめっ子たちが寄ってたかって「矯正」に失敗していた。あたしだって治せるものなら治したかった。外では自分を「俺」と呼ぶようにしていたし、なるたけ荒っぽい言葉遣いをするよう気をつけていた。でもそうすると、自分の内側と外側がどんどん離れてゆく。
posted by 柳屋文芸堂 at 01:01| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
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