2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(4/49)

「うちの店、閉めることにしたよ」
「えっ……」
 あたしはその場でへたり込んでしまった。
「どうしてなの?」
「相談せずに決めて悪かったなぁ」
「身体の具合でも悪くした? あたしが帰って店に立とうか?」
「いやそうじゃない。この土地がな、もうダメなんだ」
 実家の店は工業団地の端にある。そこで働く人たちが昼食や忘年会や新年会でうちを使ってくれるから、都会に近くなくても繁盛していたのだ。その工業団地が、すでにもぬけの殻だという。
「今はどの会社も外国に工場を移すだろ。近所は『テナント募集』の看板だらけだ」
「生活は大丈夫? 借金が残ってたりする?」
「それは心配するな。借金はない。微々たるもんだが蓄えもある。それよりお前に申し訳なくて」
 一瞬の沈黙の後、父さんははっきり言った。
「板前の世界なんて向いてなかっただろう」
「向いてる部分だって……あ、あるよ」
 悔しくて涙が止まらなかった。
posted by 柳屋文芸堂 at 00:59| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
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