2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(5/49)

「いや、泣かせるつもりで言ったんじゃなくてな……」
 一度電話を切り、ひとしきり泣きじゃくって鼻をかんで、こちらから再びかけ直した。
「お前が板前に向いてないんじゃなくて、がさつな男たちの間で生きるには神経が細過ぎるっていうか」
「言いたいことは分かるからいい。泣いたりしてごめん」
 父さんのため息が聞こえる。
「店を継ぐって張り切ってたのにな。しかしこう街がガラガラじゃしょうがない」
「これからは年金暮らし?」
「まだ働くよ。老人ホームの調理場へ行くことになってる」
「おじいちゃん、おばあちゃんに美味しいものを食べさせてあげてね」
「おう」
 明るい声を出すよう努めたけれど、頭の中では「向いてない」という言葉がぐるぐる回り続けていた。


posted by 柳屋文芸堂 at 00:58| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
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