2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(8/49)

 もう何がなんでも板前になる必要なんてないんだ。次は男らしくしなくて済む職業を選ぼう。そう決心したはずなのに、寿司屋や料亭のスタッフ募集のポスターばかりが目につく。未練たらたらだった。
 ある時偶然、オカマバーの調理場の求人を見つけた。ここなら女っぽくても目立たないのではないか。落ちたって話の種になると、軽い気持ちで面接の申し込みをした。
 思いのほか狭くて地味な事務室に、背中の曲がったオカマのおばさん(おじさん?)が座っていた。しわしわの顔を真っ白に塗っていて、三百歳くらいに見える。
「調理希望……」
「先月まで寿司屋にいました」
「若いんだし、フロアで働きましょうね」
 働きませんか、ではなく、働きましょうね、ってどういうことだ。
「でも、あた……自分は料理するしか能がなくて」
「すぐ慣れるわよ」
「それにもう二十一で、若い訳じゃないし」
 おばさんの両目がビカッと光った。本当に光った!
「二十一で若くないなんて言ったらね、二丁目から生きて帰れないよ!」
 魔女だ。迂闊にも、本当の名前はもちろん学歴や職歴に住所まで書いてある履歴書を渡してしまった。魔法をかけられちゃうよ、須本くん。
 おばさんはまっすぐあたしの目を見る。
「あなた、家で女装してるでしょう」
 息が止まるかと思った。
「女性用のパジャマを着ているだけです。可愛いものを着ると、心が落ち着きます」
 おばさんはあたしの馬鹿正直な答えに感心したらしく、何度か深くうなずいた。
「服と化粧品はお店のを使えるから。角刈りも素敵だけど、カツラをかぶってもらうわ。それじゃあ明日から来てね〜」
posted by 柳屋文芸堂 at 00:56| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
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