2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(10/49)

 ロングスカートのスーツに、ゆるいウェーブのかかった黒髪のかつらをかぶって、どこを見たら良いのか分からずきょときょとしているあたしが、鏡の中にいる。
「その子、二十一だってぇ?」
 ガラガラ声の、赤鬼のコスプレをしている(ようにしか見えない)おじさんが、目をキラキラさせてナナさんに言った。
「若さっていうのは失って初めて価値が分かるのよねぇ…… あたしが二十一の時には」
「考古学の講義はよそでやって」
「何よっ 人をシーラカンスみたいにっ」
「今、上野の東京国立博物館に行くとね、埴輪と土偶の間におネエさんの二十一歳の時の顔が陳列されてるから」
「あんたの毒舌は設定が細か過ぎるのよ!」
 赤鬼さんは笑いながら自分のメイクに戻っていった。
「あたし、そういう風に言葉も出て来ないし……」
「口下手は武器になるから大丈夫」
「お客さんとおしゃべりするのが仕事なのに?」
「やろうと思えば何だって武器になるのよ。そうね、もう少しほっぺた赤くして純情さをアピールしようか」
 ふわふわの刷毛でほお紅を塗ってもらうと、ちょっと冷たいような感触があってドキドキした。ナナさんの形の良い大きな目があたしをのぞき込んでる。男の人にしか興味がなかったはずなのに、ナナさんに憧れるのは変かな。ナナさんも男の人なんだからおかしくないか……
 あたしの心を読んだみたいにナナさんは、
「惚れるなよ」
 とドスの利いた声で言った。
posted by 柳屋文芸堂 at 00:55| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
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