2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(16/49)

「こっち、こっち!」
 声のした方を見ると、背広を着た男の人が手を振っている。
「七瀬から聞いてるよね」
「ななせ……? ナナさんのことですか」
「あいつの源氏名『吉本なな』だっけ。本名は七瀬耕一っていうんだよ。僕のことボロクソに言ってたろう」
 男の人は何故かニコニコして、嬉しそうだった。丸い眼鏡とふっくらした顔の輪郭が、穏やかな印象を与える。ナナさんはおじさんと言っていたけど、肌につやがあるし、意外と若いんじゃないか。
「大学の同級生でね」
「じゃあナナさんと同い年ですか!」
 驚いてしまった後で、失礼だったと気づく。
「すみません」
「いいんだよ。昔からあいつは若く見えたし、僕は十代の頃からおじさんだった」
 渡してくれた名刺には「隅田周平」とだけ書いてあった。会社名も役職もなし。裏を見ると、郵便番号と住所と電話番号が手書きしてある。
posted by 柳屋文芸堂 at 00:51| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
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