2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(17/49)

「君は板前だったんだって?」
 急に、オカマバーに勤める前の、心細い気持ちが戻ってくる。
「いえ、下働きで辞めちゃったんで、本当は板前じゃないんです。ナナさんは冗談によく使うけど」
「もう料理の仕事はしたくないのかな」
 あたしは顔を上げて、男の人の顔をじっと見た。
「実は、店を出そうと思っているんだ。二丁目か三丁目のどこかに。最初に考えていたのは、マンガ喫茶の小説版みたいなカフェだ。僕は村上春樹のファンだから、彼が若い頃やっていたバーみたいな内装にして、本棚に小説を並べて自由に読めるようにして。文学青年のゲイたちがそこで趣味の合う友だちや恋人と知り合えたら素敵だろうな、と」
 そこで一息つくようにアイスティを飲んだ。


posted by 柳屋文芸堂 at 00:50| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
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