2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(25/49)

「このページだけ読んでも、どんな味なのか分からなくて。もっと先に書いてあるんですか?」
「いや、僕は見つけられなかった。でもこの場面のスパゲティが印象的で忘れられないんだ」
「正解は分からないけど、とりあえず自分で考えてみようと思ったんです。失業している男の人が朝の十時半に作るスパゲティに、いったい何が入っているのか」
 周平さんは居住まいを正してあたしの話に聞き入った。
「まず、わざわざ材料を買いに行かないと思います。家にあるものでどうにかする。トマト缶は安いし、常備しているんじゃないか。会社に行かなくていいと思うと、つい昼間からビールを飲んでしまう」
 あたしは想像上の冷蔵庫を開け、手を伸ばした。
「つまみの枝豆とソーセージが残ってる。奥の方には開封済みのバジルソースのビンが。よし、これも使っちゃおう」
「なるほど」
 周平さんは腕組みしてうなずいた。
「そういう設定ですがバジルペーストは手作りです。すり鉢でつぶしました」
「うん、香りが良いもんね。分かるよ」
「どうですか? 読書中に食べた味に少しは似てますか?」
 ドキドキして顔が熱い。
「自分が色んな物事を侮っていたのに気づいたよ。食べ物も、君のことも」
posted by 柳屋文芸堂 at 00:38| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
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