2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(26/49)

 改まった態度でそう言われ、きょとんとしてしまった。
「スパゲティなんて簡単だし、自分で作って出そうかとも考えていたんだ。料理担当の人がいれば、自分は飲み物と接客に集中出来て良い。君をその程度の存在に考えていた」
「それで問題ないですよ?」
 何しろお寿司屋さんでは客向けの食事を一切作らせてもらえなかったのだから。
「いや、この店は君の店になる。美味しい料理は万人にとって善だ。ゲイにとっても、文学青年にとっても」
 周平さんの視線と言葉がまっすぐあたしを貫き、発熱で頭の中が真っ白になった。何も答えられず、逃げるように台所へ向かう。
 あたしはそれまでの人生で、親にしか褒められたことがなかった。父さんと母さんはあたしが世間で上手くやっていけないことをよく理解し、せめて家では自信を失わせないようにと、あたしの良いところをたくさん見つけて言葉にした。端的に言えば溺愛した。
 親の優しさだけを頼りに生きている自分が嫌だった。まるで子どもじゃないか。もうじき二十二になるのに。
 褒められようと貶されようと平然としていられるのが、本当の大人なのだろう。自分自身の評価だけで自分を立たせること。あたしはダメだ。周平さんの「美味しい」という言葉が心の中で渦を巻き、台風の時の街路樹みたいに激しく揺れている。
posted by 柳屋文芸堂 at 00:38| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
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