2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(32/49)

「恋の悩みねっ」
「うわーっ びっくりしたっ」
 化粧し終えてボーッとしている時にゆめこさんが耳元で囁くものだから、つい大声で叫んでしまった。
「ち、違います。仕事の悩みです」
 しまった。オカマバーを辞めて春樹カフェを始めようとしている話は、ナナさんにしかしていない。仕事と言えばここのことだと思われる。みんな親切にしてくれるのに、何が不満なのかと問い詰められたらどうしよう。
 しかしゆめこさんは、あたしの戸惑いを丸々無視した。人差し指をぴんと立てて言う。
「ゆめこを騙そうったってムダよ! 一目瞭然なんだから。恋に悩んでる時は、顔が赤くなるの。仕事で悩んでる時は顔が青くなる」
「そんな赤鬼青鬼みたいに……」
 ゆめこさんは鬼より化け猫に近い、意地の悪い笑顔を浮かべて、
「占ってあげようか」
「やめてください!」
 もし悪い結果が出たら、春樹カフェがうまくいかなくなって周平さんとの関係が崩れてしまうとしたら、あたしは今度こそ立ち直れない。
 半泣きのあたしを見てゆめこさんは、
「全く若いっていうのは憎たらしい。あたしなんて『夕飯何にしよう』くらいしか悩みがないのよ。まあそれも幸せだけど」
 と言って笑った。
 あたしの悩みも食べ物の悩みです。たぶん。
posted by 柳屋文芸堂 at 00:33| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
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