2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(43/49)

 しばらく何も言えず、二人とも黙っていた。はんてんは始めのうち暑いくらいだったけど、冷たい床に体温を奪われ、気がつくと震えるほど寒くなっている。
 発熱しているものが欲しかった。周平さんの方を見ると、鼠色のモコモコしたセーターを着込んで腕をさすっている。あたしは飛び込むように周平さんに抱きついた。拒まれなかったから、背中に腕を回してぎゅっとする。毛糸がほおに当たってチクチクした。
「好きになってごめんなさい」
「どうして謝るの」
「周平さんが一生懸命お金を貯めて開く念願のカフェなのに、あたしは迷惑ばかりかけてる」
 セーターの奥のあたたかさが恋しくて、涙が出た。周平さんの肌の匂いを感じる。もっとそばに寄りたい。けれど帽子を取られそうになり、あたしは腕を離した。
「髪型が変なんです」
「頭を撫でたいんだけど」
「えー」
 周平さんに頭を見られないよう、上の方に抱きつき直した。中途半端な長さの茶色い猫っ毛に、周平さんの指がざっくり入る。全身が反応し声が漏れた。
「恥ずかしい。おかしい。どうしよう」
 心臓がドキドキして、もう我を失いかけている。
posted by 柳屋文芸堂 at 00:23| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
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