2013年03月23日

オカマ板前と春樹カフェ(46/49)

「嫌じゃなかった?」
 強く首を振る。嫌な訳がない。こんなに好きなのに。周平さんは腕枕をして、全身を撫でてくれた。もう焦らさずに、指先と舌で刺激する。周平さんがそんな風にしてくれていると思うと、声を出さずにはいられなかった。後で思い出すと恥ずかしくて立ち直れなくなりそうな、動物っぽい淫らな声で。
 終わった後、周平さんはあたしをきつく抱き締めた。絶頂の反動で深い悲しみが押し寄せ、泣き出してしまった。
「春樹カフェが完成しても、恋人を連れて来ないでください」
「何言ってるの?」
「あたしきっと、苦しくて包丁を持てないと思います」
「恋人なんていないよ。君以外には」
 涙を拭いて周平さんを見る。ちっとも乱れない、出会った日と変わらない笑顔。
「あたし、セフレっていうのになるのかと思ってました」
「僕、セフレって金持ちのことだと勘違いしてたんだよね。かなり長い間」
「それセレブですよ。セしか合ってません」
 笑った後で、もう一度周平さんはぎゅうっとしてくれた。
「好きになってくれてありがとう。照れ臭くて言えなかった」
 嬉しいのに、あたしは何故か幸せに浸れない。
「でも、あたしなんて好みじゃないでしょ? 女っぽいし、小説の話も出来ないし」
 否定して欲しい。あたしを落ち着かせるように、背中をさすりながら周平さんは話す。
「十代の終わりから二十代の初めに、五年間付き合っていた人がいたんだ。その人との関係が壊れた時に、自分の人生の恋愛の機会は完全に失われたんだと思った」
posted by 柳屋文芸堂 at 00:20| 【中編小説】オカマ板前と春樹カフェ | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。