2010年08月05日

たわむれ(その6)

知ってるよ あなたの苦手と 好物を
          エビの手足と ハスはさみ揚げ



 好きな人、というのは何をしていても可愛く思えるものだけど、とりわけ苦手なものを前にしている時の様子は、たまらない。

 映画館で、本編が始まる直前の出来事だ。私と彼氏は席につき、だらだらと流れ続ける大袈裟な宣伝を、見るともなしに見ていた。
 これじゃあ映画の前に寝ちゃうじゃないの、ふわわわわ。暗闇にまぎれて思う存分あくびをしていると、彼氏が突然、私のてのひらを、ぎゅううう、と強く握って来た。

「?」と思って顔を上げると、スクリーンでは、巨大なエビが水だかお湯だかの上を跳ねて、いかに自分が新鮮で美味しいかを見せつけていた。(確か魚介類を得意とするレストランの宣伝だったと思う。)彼氏は私の耳元に口を寄せ、悲痛な叫びを上げた。

「こういうの、苦手なのだ〜!」

 か、可愛い。
 即座に生きた伊勢エビを手渡してしまいたいくらいに、可愛い。(極悪人)いやはや本当に、その映画の内容をすっかり忘れてしまうくらい、素敵な体験だった。(やっぱり私は映画より恋人なのだ。)

 当然、好物を前にした時もたまらない。
「レンコンのはさみ揚げ」
 という言葉は魔法の呪文のように、彼氏の笑顔を子供に戻す。

 ……のろけはいい加減にしろって? はい、はい。わかったよーだ。
posted by 柳屋文芸堂 at 00:13| 【短歌】たわむれ | 更新情報をチェックする