2010年06月01日

ど素人南イタリア旅行記(その3)

3−1、南イタリア旅行1日目(5月26日) 機中
 
「アリタリア航空はスーツケースが別便になって届かない事がありますので、1泊分の荷物はスーツケースに入れずに手荷物にしてください」

 出発の数日前に添乗員さんから連絡があったので、歯ブラシ・歯磨き粉・ねまきをリュックに入れ、大慌てで出発。別に寝坊した訳ではない。専業主婦になって「朝に出かける」事が滅多になくなったものだから、毎日「朝の戦場」を繰り返しているDちゃんに後れを取ったのだ。

 成田空港には最寄り駅(新浦安)からリムジンバスで行った。乗り場が少々分かりにくく、スーツケースをガラガラしながら右往左往したものの、予約していた時間に無事間に合った。一緒に乗ったのはおそらくディズニーランド帰りの、中国人と英語圏の人。
「日本は楽しかったですか? 私たちもこれから旅に出るんです」
 と心の中で話しかける。

 リムジンバスは道が混んでいなかったため1時間ほどで成田到着。荷物を持って乗り換える手間もないし、直通バスは便利だ。集合時刻までまだ充分時間がある。「Soup Stock Tokyo」というお店で朝ごはん。野菜カレーと野菜スープというヘルシーな組み合わせにしたが、朝から何も食べていなかったせいでお腹が張ったようになる。Dちゃんも朝食を食べる習慣がないため腹痛。出発前に大丈夫か?

 11:30頃、ビッグホリデーのカウンターで添乗員さんに会い、パスポートを見せ、搭乗券を受け取る。出発前に実家に電話をしようかな、と考えているうちに集合の声がかかった。飛行機に乗るまでの手続きを説明される。そしてスーツケースの中身のチェック(X線の機械を通す) もうそれで預けた事になるのかと思ったらまだだった。放置される私のスーツケース。慌てて取りに行き預ける場所へ。

 その後添乗員さんにくっついてゾロゾロ行くのかと思い、一生懸命追いかけていたら、Dちゃんに、
「離れないように」
 と叱られる。
「添乗員さんとDちゃんのどっちについていったら良いのか分からなかったんだよ!」
 と怒る。
 早くも成田離婚か?

 どうもDちゃんは何か問題が起きたりしないか注意深くなっているうえ、昨日までの仕事の疲れもあって、いつもより私への小言が多くなっているようだ。添乗員さんにはどう思われようと構わないが、Dちゃんは一生の伴侶なので、Dちゃんにくっついていく事にする。

 搭乗ゲートに入る前に手荷物検査。
 テロ対策のため、2007年3月から機内への液体物の持ち込みが制限されるようになった。100mlを超える液体物の機内への持ち込みは禁止(航空会社に預けるスーツケースの中ならOK)で、100ml以下のものもジッパーの付いた透明な袋に入れておかなければいけない。液体にはジェル類も含まれ、
「リップクリームもダメな時があるんですよ」
 と添乗員さんから聞いていた。

 事前に自分で用意したジップロックの袋に、歯磨き粉とハンドクリームとリップクリームを入れ、提出。言われた通りきちんとやったのだから問題ないだろう。そう思って普通に通過しようとしたら、係員に呼び止められた。

「100mlを超えています」
 歯磨き粉を指差す。確かに「130g」の表示。
「えっ、でも中身はずいぶん減っているし……」
「容器の大きさが超えているとダメなんです。破棄しますが、良いですか?」
 えええーっ、歯磨き粉がなかったら困るよ!
 まだ使えるものを捨てるなんてもったいないし!
 でも規則は規則。
 うなずくより他ない。

「Dちゃ〜ん、歯磨き粉取られた〜」
 予想外の出来事に半泣き。
「Dちゃんは平気だった?」
「うん」
 Dちゃんの歯磨き粉を見てみる。
「170gって書いてあるじゃん!!」
「シーッ!」
 Dちゃんの歯磨き粉は中身が残り少なく、チューブがペチャンコだったのが幸いしたらしい。

「迂闊だったね。歯磨き粉の量なんて全然気にしなかったよ。ハンドクリームは確認したのに」
 イタリアのホテルには旅行者用歯磨き粉なんて置いてないと聞いている。出国審査の後、売店で歯磨き粉がないか探してみたが見つからない。
「旅行中、歯磨き粉貸してくれる?」
「もちろん。イタリアの検査で僕のも取られなければね……」

 搭乗ゲートで少し時間があったので、実家に電話。
「何アンタ、悲しそうな声出してんの?!」
 母よ、さすがに鋭いな。
 歯磨き粉の話をしたら心配すると思い、イタリアの食事の話などをして切った。 

 飛行機に乗ると、私は窓際の席だった。
 外が見たくて仕方ないお子ちゃまだと、どうして分かったのだろう?

 案内のイタリア語は5%くらいしか聞き取れない。
「ナントカカントカ qui(クイ) vicino(ヴィチーノ)(この近くに)ナントカカントカ」
 どうも非常口の位置の説明らしい。
 日本語の案内も後からあるのでリスニングのテストだ。
 救命胴衣の使用方法がアニメで流れる。
 日本のものとは明らかに動きが違う。
 ヨーロッパ的で、フランスのアニメ「王と鳥」を思い出した。
 そんなささやかな異国情緒が嬉しくてたまらない。

 14:00頃、いよいよ離陸開始。
 ちょうど左翼が見える席だったので、
「これが今折れたら死んじゃうんだろうな。でもDちゃんが一緒だから全然平気」
 と思う。しかし「当然」というか「ありがたく」というか、離陸は無事成功して、空へ。添乗員さんの、
「アリタリア航空は色々壊れている事が多い」
 という言葉を思い出す。おそらく座席のディスプレイや音楽チャンネルについて言ったのだろうが、飛行機を飛ばす大事な部分(エンジンや翼)は問題ないのだろうか。中身はどうでも良いのでその辺をしっかりしてもらいたい。

 成田上空は畑だらけで驚く。自分の飛行機の影が地上に映っている。海が見えたので、
「さらば千葉、さらば日本」
 と心の中で別れを告げたら、すぐまた地面が見えた。どうやら東京湾を渡っただけらしい。その後芦ノ湖のようなのが見えたり、雪の残る美しい山脈が見えたり、とても楽しかった。雲の眺めももちろん上から。綺麗。二つの蛇行する川を見て再び海へ。日本海だ。

 機内サービスの赤いオレンジジュースを飲みながらこの旅行記のためのメモを書いたりしているうちに、機内食の用意が始まった。イタリア料理と日本食があるというのでイタリアの方を選んだら、品切れ。代わりに日本食が来た、と思ったら、
「まだイタリア料理があるかも」
 みたいな事を英語で言われて、戻された、と思ったら、
「イタリア料理は終わり」
 という声が聞こえ、再度日本食がやって来た。落ち着かないのう。

 内容はうなぎと、おでんのような煮物。こんな所で最後の日本食を食べる事になろうとは。昨晩、ひつまぶしを食べようか迷って結局食べなかったのだが、正解だった。うなぎとおでんはすごく美味しいという訳ではないけれど、
「ちゃんと作りました。でも冷えちゃったので、レンジでチンしました」
 という感じで悪くなかった。
 自宅で夕ごはんの残りを朝ごはんに食べる気分。

 食事の後、少し経ってから、乗務員のお姉さんが回って来て、
「Close(クロウズ).」
 と繰り返している。皆次々と窓を閉める。明かりも消えておやすみタイムだ。私もしばらく(どれくらいなんだろう? 時計を持って来なかったので不明)寝てみたけれど、足がしびれて、
「もしやエコノミークラス症候群?!」
 と恐怖に駆られ安眠など無理。

 起きて窓を小さく開けてみる。
 今はロシア上空を飛んでいるらしい。
 元ロシア語通訳の米原万里さんの本にハマっている私には感慨深い。
 じんわりとした感動とは無関係に、お腹のガスがポコポコ言っている。

 旅行に出ると必ずお腹が張る私。
 用を足すためというより運動のためにトイレに行きたいのだが、Dちゃんもその隣のお兄さんも寝ているので、通路に出られない。窓を閉めてしまったら窓際なんて不便なだけではないか!!

 どうしようもないので座席のディスプレイで「トイ・ストーリー」を見る。
 おお、バズ初登場!(私は2しか見ていない)
 こうやってウッディとバズは知り合ったのか。
 ……って何でイタリアに向かう飛行機の中でディズニーアニメを鑑賞しているのだろう?
 旅情を損なわないためにイタリア語吹き替えにしたら、セリフは5%しか理解出来なくなった。しかし切ない部分やアクション部分はちゃんと分かって面白い。アニメ万歳!

 映画が終わる頃、Dちゃんとその隣のお兄さんが起き出した。よしよし。
「すみませーん」
 Dちゃんは問題なく立ち上がってくれる。ところが見知らぬお兄さんは、ノートや本を沢山並べて勉強中だった。私のためにそれを全部片付ける。申し訳ない。

 トイレは狭くてドアに頭をぶつけたりしたけれど(私が不器用なだけ)汚くはなかった。スクリーンの表示によると、あと5時間少々でローマに着くらしい。
 みんながおやすみタイムに飽きたと見てか、お菓子が配られる。金髪の乗務員のお姉さんから受け取る、亀田のおつまみおせんべい。やたらに美味しい。

 乗務員さんは二人の日本人以外、全員英語で話す。私はすっかり英語の発音を忘れてしまっていて、
「Water.(水)」
 の注文すらままならない(正確に発音するなら「ウオーター」ではなく「ウォタ」と「ウヮタ」の間くらい?)
「水頼んで、水!」
 とDちゃんの袖を引っ張る体たらく。

 1年間頑張って勉強したイタリア語が活躍する場面は出て来るのだろうか?

 途中、気流が乱れているので安全ベルトを、というアナウンスがあった。少し大きめに揺れている。私は「風の谷のナウシカ」のトルメキアの船が落ちるシーンを思い浮かべた(アニメばっかりだな)でも全然怖くない。Dちゃんは私の手をぎゅっと握って来た。

「のりが不安だといけないと思って」

 と後で言っていたが、あれは絶対自分が怖かったに違いない。私はDちゃんと心中出来るなら願ったり叶ったりだもの。イタリアを見ずに死ぬのは残念だけど。

 そんなあれこれを考えつつ、ついに到着まであと1時間。成田からローマまで12時間かかると知った時には、
「そんな長時間、大丈夫なんだろうか?」
 と心配でたまらなかった。
 しかし寝たり起きたりしていたせいか、案外あっという間だった。
 到着前に軽めの機内食が配られる。
 パン、ハム、チーズにデザート。
 食べ物の周りでウロウロしていた小さな羽虫を、Dちゃんがつぶしてくれた。

 外は青くて、ポリエステル綿みたいな雲が後ろに流れていく。高い所に月が見える。日本の時刻だと深夜だが、イタリアはマイナス7時間の時差があって、夕方なのだ。

 イタリアの時刻で19:00過ぎ、ローマ空港に到着!

 添乗員さんのもとに集合してこれからの予定を聞く。ローマ空港内で1時間ほど自由時間を取った後、空港の外には出ずにバーリ行きの飛行機に乗り継ぐ。添乗員さんは目立つ旗を振る訳でもなく、一見ただの旅行者だ。迷子にならないよう顔をしっかり覚えなければ。

 イタリアではチップが必要なので、bar(バール)(イタリア式喫茶店)に行ってお札を崩す事にする。
「Dちゃん、先行く?」
 Dちゃんは bar(バール) の5歩手前くらいの所で、臆病な子犬のように固まっている。慣れない「外国語での買い物」に怖じ気付いているようだ。
 もともと私は男に度胸など求めていない。
(落語に出て来る若旦那みたいなのが好み)
 Dちゃんはそのまま放っておいて、レジに向かう。

「Un(ウン) cappuccino(カップッチーノ),per(ペル) favore(ファヴォーレ).(カプチーノを1杯お願いします)」

 レジのお兄さんも、
「cappuccino(カップッチーノ)……」
 とつぶやいている。
 どうやら通じたらしい。
 おおーっ、私のイタリア語が初めて役に立ったぞ!

 でも残念ながらリスニングがさっぱりで、お兄さんが言っているらしいカプチーノの値段が分からない。まあお札なら何でも間に合うだろう、と渡してみたら、不審顔。ん?
「ああーっ、それ違う、違う!」
 思いっきり日本語で叫びながら取り返す。
 ユーロ札を出したつもりが樋口一葉の5000円札だった。
 失敗、失敗。

 改めて10ユーロを出し直す。
 おつりと一緒に受け取ったレシートを、飲み物を作ってくれるスペースに持ってゆく。するとbarista(バリスタ)(コーヒーをいれる人)が、カプチーノの入ったカップを目の前にことりと置いてくれた。牛乳の泡の上にはココアがかかっている。背の高いテーブルで立ったまま飲む。香ばしく、砂糖を入れなかったのに飲みやすく、メチャクチャ美味しい!! 空港のおまけのような bar(バール) だったから、味なんて全く期待してなかったのに。

 台湾の烏龍茶を初めて飲んだ時にも、
「これがあのペットボトルの烏龍茶と同じものか?!」
 と驚いたが(質の良い烏龍茶は花の香りがしてまろやか)このカプチーノにも同じくらい衝撃を受けた。お茶マニアで、コーヒーはそれほどでも…… と思っていた私も、この旅でコーヒー党に生まれ変わってしまうのか?

 本場のcaffè(カッフェ)(コーヒー)に酔いしれて、すっかり存在を忘れていたDちゃんが、気付くとそばにたたずんでいる。おや、何故か何も持っていない。

「おつりが足りないから、お札じゃダメだって言われちゃった……」

 小銭を沢山作ろうと思って二人別々に頼んだのがいけなかった。
 私のおつりを使ってもう一度注文しようか? と言っても、しょんぼりしたDちゃんは聞く耳持たない。私よりDちゃんの方がずっとコーヒー好きなのに。

 申し訳ない気持ちと、カプチーノのうっとりするような余韻を引きずったまま、集合場所へ。ここからはツアー参加者全員が、添乗員さんの後をゾロゾロと続いていく。手荷物検査でDちゃんの歯磨き粉が没収される事もなく、無事バーリ行き飛行機の搭乗ゲートへ。

「さっき乗った飛行機、出発も到着も定刻通りだったね。イタリアの飛行機はよく遅れるって聞いてたけど」
「そういえばそうだね」
 なんて会話をしている所へ、イタリア語で早口のアナウンス。

「Oh(オー)〜!」
「Ah(アー)〜!」

 すぐさま嘆きと苦笑の入り混じったどよめきが起きる。
 ええい、黙れ、イタリア人!
 その後の英語のアナウンスが聞こえないではないか。
(まあ私はどっちも聞き取れないけど)

 添乗員さんはスピーカーのそばに行って何が起きたかを一生懸命知ろうとしている。
「バーリ行き飛行機の出発が遅れるそうです」
 なるほど。
 それでどよめきの中に苦笑が混じっていたのか。
 イタリア人にとっては、
「いつも通りのハプニング」
 という気分なのだろう。

 21:30頃、どうにかバーリ行き出発。
 15分ほどの遅れで済んで良かった。
 成田−ローマ間ではイタリア語・英語・日本語でアナウンスがあったが、イタリア国内線であるローマ−バーリ間ではイタリア語・英語のみ。英語のリスニングが得意なDちゃんが寝てしまうと、私は何も分からなくなってしまう。

「飛行機の中のアナウンスなんてどこも内容は一緒だよ」
 とDちゃんは言う。
 移動に関しては、語学力より旅慣れているかどうかが大切みたいだ。

 約1時間でバーリ到着。
 預けた荷物の回収へ。
 私のスーツケースは、真っ赤なボディに「ゲジゲジ眉毛&タラコ唇」の黄色い鳥、その名も「バードになったのり子」の大きなシールが貼ってある。うん、目立って大変よろしい。すぐ見つかった。Dちゃんのは地味な黒いものだがこれも発見。アリタリア航空は荷物が届かない場合もあると聞いていたから心配していた。
 これで安心。

 と思っていたら、何と、同じツアーにスーツケースが見つからない人がいるという。噂は真であったか。添乗員さんが慌てて取り戻すための手続きをしていた。

 バーリからは観光用のバスに乗ってアルベロベッロのホテルへ。
 約1時間。

 24:00頃、
「HOTEL(オテル) COLLE(コッレ) DEL(デル) SOLE(ソーレ)」
 に到着。
 もうクタクタだ。
 歯だけ磨いてバタンキュー。
 Dちゃんはシャワーを浴びると言っていた。

 入った様子も、出た様子も、全く覚えていない……
posted by 柳屋文芸堂 at 11:31| 【旅行記】南イタリア旅行記 | 更新情報をチェックする