2010年06月01日

ど素人南イタリア旅行記(その8)

3−6、南イタリア旅行6日目(5月31日) ローマ
 
 6:00に起きて大慌てで食事。
 バスに乗り込み、カトリックの総本山のあるヴァチカン市国へ。ここは世界最小の独立国家で、一昨年、コンクラーベ(教皇選挙)が行われた時にはニュースでも大きく取り上げられた。

 20分ほど列に並んでヴァチカン美術館に入場する。
 案内をしてくれた日本語ペラペラのイタリア人ガイドさんが面白かった。売れっ子らしく、説明の途中にたびたび携帯電話が鳴る。右手と左手に1つずつ持って、片方はイタリア語、片方は日本語、なんて離れ技も見せてくれた。

「しゃべり方がさ、少し田村正和を彷彿とさせない?」
「話し始める前にちょっと『ため』があるせいだろう」

 確かに田村正和は、セリフなんてちゃんと覚えているはずなのに、
「次、何を言おうかな」
 と考えているかのような「ため」を入れる。
 ガイドさんの「ため」は日本語を組み立てるための時間だが、田村正和のは演技をリアルに見せる技術なのだろう。
 そうか、そんな所に彼の工夫があったとは……

 そんな事はともかく、詳しい解説を聞いた後、システィーナ礼拝堂へ。
 ガイドさんから注意。
「スリもいるので気を付けてください。子供たちが良い商売してますので」
 こんな言い回しが出来るんだもの、人気者になるよね、そりゃ。

 この礼拝堂にはミケランジェロの天井画がある。
 旧約聖書の中の場面が緻密に立体的に描かれて……いるのは良いけど、天井なので鑑賞するのが大変。首をコリコリさせながら上を見上げていたら、Dちゃんが頭を支えてくれた。
「あら、優しいわねぇー!」
 同じツアーのおばさんに冷やかされる。
 うるせえ。

 日本の美術館では、シンプルな建物の中に美術品を展示する事が多い。しかしここは美術品を展示する場所というより、建物全てが美術品という方が正しい。右を見ても左を見ても上を見ても下も見ても、何もかもが豪華絢爛。
 ため息が出る。

 そのまま進んでサン・ピエトロ大聖堂へ。
 旅行者が大挙して押し寄せる観光スポットでありながら、今でもちゃんと祈りの場として使われている。司祭様(という呼び方で良いのか、キリスト教の知識が少なくて分かりません。ここの儀式を取り仕切っていた人)が信者たちに何やらお話していて、途中、メロディ付きの祈りが建物内部に響き渡った。

「ねえ、これ……」
「そうだね」
 グレゴリオ聖歌の旋律の一部だ。感動のあまり、全身がゾワーッとして心が飛んでゆく。Dちゃんに最初にもらったプレゼントが、グレゴリオ聖歌のCDだったのだ。

「のり、頭に妖怪アンテナが立ってるよ」
 感激アンテナだってば!

 大聖堂を出ると、入場待ちをする長蛇の列。
 私たちは予約ありの団体入場だったのですぐ入れたが、個人で来た人はかなり(2〜3時間?)待たなければいけないらしい。
 こういう所はツアーの良い点だ。

 昼食はレストランでペンネアラビアータ(辛いトマトパスタ)、ローストチキン(ローズマリーの香り。大き過ぎて食べ切れなかった)、パンナコッタ(なめらか!)、別会計でカプチーノ。
 食後解散して、今日は夜までフリータイム。
 どれだけこの時を待っていたか。

 ホテル前までバスで送ってもらい、まずは近所のスーパーへ。
 Dちゃんの会社の人たちへのお土産(ビスコッティ)と、acqua(アックア) gassata(ガッサータ)(炭酸水)を買う。本当はオリーブオイルも欲しかったのだけれど、大きなビンしかなく諦めた。
 塩はすっかり忘れていた。
 失敗。

 一度ホテルに戻ってから再び道に出ると、横断幕を持ったおじさんたちが大騒ぎしながら練り歩いている所だった。車も人々に交ざって徒歩の速度で進み、長々とクラクションを鳴らす。
 まるで角笛だ。
「これ、もしかしてデモ行進?」

 今日、ローマ市内のタクシーがストを起こしているというのは聞いていた。遠出しないし関係ない、と思っていたら、こんな集団に出くわすとは。デモ行進の前後は歩行者天国状態。
「イタリアの車は運転が怖いし、排気ガスも煙いから、タクシーの運転手さんはいつもデモをしていて欲しいね」

 イタリアの地下鉄は、
「行きはよいよい帰りは怖い(買ったものを盗られる)」
 らしいので、あちこち行きたい人には不便だろうな。

 行進の道から離れ、フォロ・ロマーノへ。
 萩尾望都の「この娘うります!」にも登場した場所なので、2人ともワクワク。都会の真ん中にある巨大遺跡。これぞローマ、というような神殿の柱にオオーッ! 入場無料で、貴重な建造物を街の風景のように感じながら、のんびり散歩が出来た。

「写真撮ろう。……あれ?」
 フィルムがもうない。
「あと1枚あると思ったのに〜!」

 盗難に遭うといけないので、39枚の使い捨てカメラを1つだけ持って来たのだが、全然足りなかった。ふだんあまり写真を撮らないので油断した。
「ごめんね〜 Dちゃん楽しみにしていたのに」
「良いよ良いよ」

 ガイドブックにも大きく載っているし、そこから思い出をひねり出そう。うーん、それにしても残念。萩尾望都ファン失格だ〜

 その後ガイドブックに出ていた「FELTRINELLI(フェルトリネッリ)」という大きな本屋さんへ。この旅行記の表紙をお願いした、ちかさんへのお土産を探す。最初、彼女の好きな「鋼の錬金術師」のイタリア語版を探していたのだが、漫画売り場がなかなか見つからない。

「Dov'è(ドヴェ) MANGA(マンガ)?(漫画はどこですか?)」
「MANGA(マンガ)」という単語は通じたようで、店員さんは何か答えてくれた。でもその意味が分からない。リスニングが出来ないんじゃどうしようもないよ〜

 困ったなぁ、と思いつつ地下に下りると、イタリア語版JUNE漫画が。
 おおお。
 ちかさんは筋金入りの腐女子である。

(※オタク用語から遠い場所で暮らしている人への解説。JUNE(ジュネ)とは男の子と男の子の恋愛物語。腐(ふ)女子(じょし)とはその手のものを愛好する女性を指す。最近は高齢化が進んで貴腐人(きふじん)なんて言われるそうですね)

「ちかさんは、くっきりした絵柄より、細い可憐な線で描かれた絵が好きなんだよな。ストーリーもどぎつくなくて淡い感じの……」
 そこにあった20冊ほどのJUNEを全部パラパラ見てみる。
「うん、これが良さそう」

 自分たちのためにイタリア語で書かれた日本の漫画の解説本なども買い、上の階に上がる。
「次は鉄六先生へのお土産を見たい」
 このお店ではCDも扱っている。
 長唄三味線の師匠である鉄六先生には、イタリアの音楽をお土産にしたかった。

「C'è(チェ) CD(チディ) "O(オー)' sole(ソーレ) mio(ミーオ)"?(CD「オー・ソレ・ミーオ」はありますか?)」
 店のおじさんはさっと移動してイタリア各地の音楽が集められた棚へ。
 1枚のCDを手に取る。

「Can(キャン) you(ユー) understand(アンダスタン) English(イングリッシュ) or(オア) italiano(イタリアーノ)?(英語かイタリア語、分かりますか?)」
 ど、どっちも中途半端だよー!
 そうだ、聞く方だったら私のイタリア語よりDちゃんの英語の方が確実だ。後ろを振り向くと、誰もいない! おいおい、ちゃんと付いて来て〜

 困り顔のまま突っ立っていると、おじさんがCDの裏側を指差しながら説明を始めた。
「"O(オー)' sole(ソーレ) mio(ミーオ)","Funiculì(フニクリ) funiculà(フニクラ)"……(「オー・ソレ・ミーオ」、「フニクリ・フニクラ」……)」
「Sì(スィー),sì(スィー).(はい、はい)Vorrei(ヴォッレーイ) questo(クエスト)!!(これが欲しい!!)Grazie(グラッツィエ)!(ありがとう!)」

 ナポリ歌曲集が欲しかったのでぴったりだ。
 一瞬で見つけてくれたおじさんに感謝。
 自分たち用にも同じCDが欲しかったがなかったので、近くにあった他のナポリ歌曲集を買う。

 他にはイタリア語版コンピュータ専門書(Dちゃんの会社の同僚へのお土産)、イタリア語で書かれた日本語の教科書(例文が面白い!「酒でも飲んで、今晩はそんな事は皆忘れよう」とか。イタリアらしい〜)なども購入。

「買い過ぎ……?」
 ふと気が付くと合計112ユーロ(2万円弱)も本屋で使ってしまった。

 本屋内の bar(バール) で caffelatte(カッフェラッテ) を飲んで一休みし、ホテルへ戻った。ベッドに寝転んで、Dちゃんは日本の漫画の解説本、私はちかさんのために買ったJUNEを読む。

「何だかコミケの後、お宝に囲まれるちかさんとえりかさんみたいだね」
 えりかさんはちかさんと一緒に私のサークル活動を手伝ってくれる友人(2人とも小学校からの幼馴染) オタク文化を愛する気持ちはちかさんに勝るとも劣らない。
 ま、私も人の事言えんが。

「恋愛の時に使うイタリア語が分かって勉強になるよ。自分用にも買えば良かったなぁ」
 楽しみながらゆっくり休んだはずなのに、夕食に行こうと動き始めると、どうも体の調子がおかしい。

「ローマ名物の carciofi(カルチョーフィ)(アーティチョーク。日本ではあまり食べる機会のない野菜)が食べたい……のに…… carciofi(カルチョーフィ),carciofi(カルチョーフィ)…… あれ? 今私、ちゃんとRを巻き舌で言えてなかった?」
「うん。旅行中少しずつ言えるようになっていたよ」
「ええっ! 日本では全然出来なくて『私には無理なんだわ』って諦めていたのに!! carciofi(カルチョーフィ)! carciofi(カルチョーフィ)!」

 しかし発音は出来ても消化が無理そうだった。
 道に迷って体力を失うのを避けるために昨日と同じレストランに行き、トイレに入ると、案の定お腹を壊していた。

 疲れのせい?
 ストレスのせい?
 連日の食べ過ぎのせい?
 コーヒー飲み過ぎ?
 acqua(アックア) gassata(ガッサータ)(炭酸水)の刺激が良くなかった?

 ……全部、だな。

 Dちゃんはトマトパスタなど普通のコースメニューを頼み、私はエビとズッキーニのリゾットと、紅茶を注文した。ティーバッグとはいえ久々のお茶にホッと息をつく。リゾットは、胃が重くてなかなか食べられない。いつもなら美味しく感じる海っぽさが、今日は生臭く感じる。ズッキーニだけを拾って口に運ぶ。

 Dちゃんのデザートを出したいらしく、何度もウェイターにリゾットを持っていかれそうになり、そのたびにフォークを握った。それでもやはり半分ほどしか食べられない。美味しくなくて残したと思われると申し訳ないので、

「Mi(ミ) scusi(スクーズィ),mio(ミオ) stomaco(ストーマコ) non(ノン) bene(ベーネ).(ごめんなさい、私の胃が良くない)」
 と言って皿を返した。
 かなり拙い文章だが、ウェイターは、
「Sì(スィー),sì(スィー).(はい、はい)」
 とてのひらを振って「気にするな」という気持ちを表してくれた。

 食後、寄り道せずホテルに戻り、すぐ眠った。
 22:00だった。
posted by 柳屋文芸堂 at 11:23| 【旅行記】南イタリア旅行記 | 更新情報をチェックする