2009年12月13日

ど素人「狂言」談義(その6)

・初心者向けの演目

 狂言の演目には明らかに、初心者向けと上級者向けがあるように思います。
 ……なんて書くと、狂言を見慣れている方から、

「そんな事はない。どの演目も面白いじゃないか!」

 という反論が来るかもしれませんね。
 実際私も今となってはそう思いますし。

 けれどもやっぱり初心者の人には、狂言の良さがストレートに伝わる、分かりやすい演目を見てもらいたいなあ、と思うのです。

 初心者向けの代表は何と言っても『附子(ぶす)』と『棒縛(ぼうしばり)』でしょう!

 『附子』はとんち話ですからストーリーが理解しやすいですし、『棒縛』は体の動きで笑わせるので、言葉で悩む必要がありません。
 ちょっとのんびりしてはいますが、お笑いのコントとして十分見られるでしょう。

 こう書くと何だか軽薄に感じるかもしれませんが、狂言独特の擬音語や、舞や謡(うたい)など、笑い以外の要素もたっぷり入っています。

 この演目のある公演を見つけたら、迷わず行って「美味しい」狂言体験をしてください。

 あとは『寝音曲』『萩大名』が上演回数も多く、面白いです。

 『寝音曲』は、
「ひざ枕でないと謡えない」
 と嘘をついた太郎冠者の話。

 寝たり起きたり、無理な姿勢で謡を謡うのが見どころです。
 かなり苦しそうなので、話の内容は初心者向けでも、演じる方は上級者でないと難しいのかもしれません。

 私は幸運にも、茂山千作さんが太郎冠者、というのを見られたのですが、千作さんの年齢(その時八十三歳!)を考えると少々ハラハラしました。
 当然ながら、そんな心配なんて軽く吹き飛ばす、力強い演技でしたけどね。

 『萩大名』は田舎大名の失敗談。
 太郎冠者の素養と機転に驚かされます。
 太郎冠者というのは、狂言の中での従者の呼び名です。
 そして大名は、江戸時代の豪奢なそれではなく、もっとこぢんまりとした地主さんです。
 大名を中小企業の社長、太郎冠者をその社員と考えると理解しやすいですね。

 『萩大名』はまさに、社交下手な社長を優秀な社員が助けようとしたけれど…… という話。
 見終わった後、狂言を身近に感じるに違いありません。

 『寝音曲』『萩大名』と来れば次は『鎌腹』、と考えて、一体何故だろうと調べてみたら、単に地元ホールで開かれた茂山千五郎家狂言会の演目でした。
 よっぽど印象に残ったのだろうな。

 まあでも、狂言普及に努める茂山家が、能楽堂以外で行った公演ですから、どれも初心者向けとして紹介するのに相応しいはずです。

 さて『鎌腹』の見どころは、何と言っても烈火のごとく怒り狂うおかみさん!
 戦後に強くなったのは女と靴下、などと言いますが(一体いくつなんだ、私。)
 庶民の暮らしだけ見れば、戦前も戦後も関係なく、女はずっと強かったのではないでしょうか。

 中世に成立したとされる狂言に登場する女たちを見ていると、余計にそう思えます。
 彼女たちはたいていダンナに腹を立てており、ギャンギャンと激しく責め立てるのです。

 その姿は、
「わわしい(やかましい)女」
 という言葉に集約され、淑やかさなどかけらも見られません。

 これって、ダンナを尻に敷いている現代女性と少しも変わらないと思いませんか?
 『鎌腹』のおかみさんはその代表。
 始まり方にもどっきりです。

 そうそう、『神鳴(かみなり)』も可愛かったですねえ〜
 その名の通り、カミナリ様が主人公。

 彼は落雷とともに地上へ落っこちて、腰を痛めてしまうのです。
 ヤブ医者がその腰痛を針で治します。
 なかなかメルヘンチックでしょ?
 治療中のカミナリ様の痛がりようと、めでたい終わり方が見どころです。

 ナンセンス好きな方には「妖怪狂言」の章で書いた『梟(ふくろう)』に加えて、『蚊相撲』をおすすめします。
 人間の血を沢山吸うために相撲取りになろうと企んでいる蚊の精、という設定からして、かなりのものだと思うのですがどうでしょう。

 大名と太郎冠者は、刺されたり、扇であおいで追い払ったり、蚊の精と真剣に戦うんですね。
 あまりのバカバカしさに見終わった後呆然とする事請け合いです。

 これを初心者向けと言って良いのかどうか判断出来ませんが、『宗論』を取り上げてみましょうか。
 法華僧と浄土僧が、
「自分の宗派がいかに素晴らしいか」
 を言い合ってケンカする話です。

 笑いどころに難しい単語が出て来たりするんですよね〜
 それでも現代人は、
「宗教的対立」
 というもののくだらなさと恐ろしさをよく知っているはずですから、社会風刺の劇として十分楽しめるでしょう。

 大声を張り上げて念仏と題目を唱える場面は単純に笑えるかな。
 最後はハッピーエンドです。
 全ての宗教的な争いが、こういう風に終わってくれると良いのですが……

 うっわ〜! 私が社会について語っちゃったよ! めっずらしい〜
posted by 柳屋文芸堂 at 21:51| 【エッセイ】ど素人狂言談義 | 更新情報をチェックする