2009年12月13日

ど素人「狂言」談義(その7)

・初心者向けでない演目

 さて。
 初心者向け狂言紹介は終わりにして、この先は上級者向け、と言うか、初心者は避けた方が良いように思う狂言について書いてみたいと思います。

 上演回数が多いにも関わらず、初心者向けでない演目の代表は、何と言っても『釣狐』でしょう。
 ……こんな事書いたら怒られるかな?
 でもそう思っちゃったものは仕方ない。

 狂言師にとって、『釣狐』は特別な意味を持つ狂言なんですね。
「修業時代の卒業試験」
 であると言われ、これを演じて初めて一人前と認められます。

 話の内容は、「初心者向けの演目」の章で取り上げた狂言にくらべると、かなりシリアス。

 大事な演目ですから、めったやたらにやるものではありません。
 しかし狂言師一人一人が必ず一生に一度は演じると考えると、けっこうな回数になりますよね。
 野村万作さんのように、何度も繰り返し挑戦している狂言師もいますし。

 そういう事を全く知らないど素人が、その一回にばったり当たってしまったとしたら?

 ごめんなさい。
 楽しめませんでした〜っ

 まあ、ばったりといっても図書館のビデオだったんですけど。
 まだ、
「狂言=コント」
 と思い込んでいた頃、お笑いのビデオを見るような気持ちで『釣狐』を借りてしまったのです。

 はい。
 間違っているのは私です。
 でも知らなかったんだもの〜!

 テーマが重いから楽しめない、という訳ではありません。
 単純に、内容が理解出来なかったのです。
 この原因は「謡」と「語り」の場面の長さにあるように思います。
 ま、ずっと後で気付いたのですが。

 通常、狂言の謡はそれほど難しくありません。
 例えば、同じ釣りでも『釣針』の謡は、

「釣ーろうよ、釣ろうよ♪」

 と明るく可愛いものです。
(余談。この話で釣るのはなんと、妻!)

 現代語と変わらない歌詞と、会場のお客さんがその場で合唱出来るくらいの単純なメロディー。
 もちろん本格的に習ったら、大変なんでしょうけど。
(上演前のレクチャートークで野村萬斎さんが指導してくれたんですよ〜!
 サービス良いなあ。)

 言葉の意味が理解出来ない謡でも、ストーリーに直接関係がなければ気になりません。
 狂言の公演に行けば必ず一度は聞く事になる、
「酔っ払って謡う謡」
 はまさにこれですね。

 『釣狐』の謡は古風な言い回しである上に、状況説明の役割まで担っているのです。
 初心者が、
「???」
 となっても無理はないでしょう。

 そして、語り。

「狐っていうのは怖いもんだからさぁ、もう釣るのはよしなよ。ね?」

 と言ってくれれば簡単なのに、妖狐「玉藻前(たまものまえ)」の物語を引き合いに出したりするものだから、元になっている話を知らなければチンプンカンプン。

 私はこの経験がけっこうショックで、放送大学の先生に、

「難しい演目を理解するにはどうすれば良いのでしょうか?」

 と質問しました。すると、

「図書館に狂言の台本がありますから、公演を見に行く前に読んでおくとずいぶん違います。
 これを繰り返すうちにコツをつかんで、台本を読んでいなくても理解出来るようになりますよ。」

 と丁寧に答えてくださいました。

 さっそく探してみたら、うちの近所の小さな図書館でも、能や狂言の台本がそろっていて驚きました。
 その後は難しい演目を見る機会がなくて、勉強せずにぽわぽわと出かけちゃってますけどね。

 「語り」と言えば、「狂言と『家』」の章でちょこっと触れた『文蔵』の中の語りもかなり長いです。
 一つの単語を思い出すために石橋山の合戦(源氏と平氏の戦いの一つ)を語って聞かせる、というもので、私は何故か三ヶ月空けずに二回も見ちゃいました。
 (山本東次郎家の後、野村万作家で。)

 合戦の語りは詳しい事が分からなくても勢いを楽しめますし、語り以外の笑える部分もけっこうあるので、私は割と好きです。
 (二回見たのは単なる偶然なのだが。)
 けれど友達は眠くなったと言っていたから、やっぱり初心者向きではないのかもしれません。

 シリアスさで言うと『武悪』の前半が印象に残っています。
 後半がドリフ大爆笑なみなので、特に。

「笑えるまでに時間がかかったな〜 初心者はあの時間を耐えられるかな〜」

 と考えてしまうんですね。

 色々好き勝手に書きましたが、

「私は楽しい物語より重たい物語が好きだ!」

「古典的言葉づかいならまかしとけ!」

 という人なら、これらの演目を最初に見たとしても狂言嫌いになったりはしないでしょう。
 私も『釣狐』ショックにめげずに、狂言大好き人間になっちゃいましたしね。

 狂言のチラシには上演する演目のあらすじが書いてある事が多いので、チケットを申し込む前に手に入れて、自分好みの話かどうか確かめると一番安心です。
 必ず出来るとは限りませんが。
 あとは終わり近くの「情報コーナー」の章で紹介する、
『狂言ハンドブック』
 のような本を一冊持っておくと、すぐにあらすじが確認出来て便利ですね。

 ケチらず買って本当に良かった。

(狂言と何の関係もありませんが、柳田はどケチです。
 特に本やCDなど「形のあるもの」に関しては、徹底的にしぶちんです。
 でも「形のないもの」である演劇やコンサートとなると、高いチケットでもぱっぱか買っちゃうのよね〜
 自分が怖い……
 そして本を買い渋るのは文章書きとしてどうなんだ。)
posted by 柳屋文芸堂 at 21:49| 【エッセイ】ど素人狂言談義 | 更新情報をチェックする