2008年10月23日

ど素人お茶談義(その9)

◇思い出のハーブティー◇
 お茶にハマったのは最近、とこの本の初めの方で書いた。けれど、やたらめったら色々な種類のお茶を飲みたがるのは、今に始まった事ではない。
 高校時代、ファミリーレストランのガストで、ドリンクバーというものの存在を知った。
「ここにある飲み物、好きなだけ飲んで良いの? それなら飲めるだけ飲み干さなくっちゃ!」
 そう、あの頃は百円が千円くらいの価値を持っていた(?)
「元を取ってやろう」
 と意地汚い貧乏女学生は、行くたびお腹がガボガボになるまで飲み続けた。一種類ではつまらないので、紅茶、コーヒー、ジュース、ハーブティーと次々試していく。
「ねえ、何だか手が震えて来たよ!」
「のりちゃん、いくらなんでも飲み過ぎなんじゃないの?(酒ではない)」
 最高で十五杯くらいおかわりしたのではなかったか(馬鹿だ……)
 この若気の至り(まあ他にもっとひどい「至り」が沢山あるから、これなんか些細なものだ)の中で、私は一つの魅力的な飲み物を見つけた。
「ガストの飲み物の中でこれが一番好き」
 友達に飲ませてみる。
「何これ! スッパ!」
「梅干しみたいで美味しくない?」
「私はダメ……」
 どこかで聞いたようなセリフを友達から引き出したのは、ローズヒップティーというハーブティーだ。ローズヒップとは薔薇の花が咲いた後につく実の事で、ガストではティーバッグで置いてあった。
 この思い出のハーブティーに、ひょんなきっかけで再会した。花粉症のために飲む甜茶とのブレンド、という形で。
 Dちゃんはかなり年季の入った花粉症で、結婚した最初の春、私たちは毎日甜茶を飲んでいた。
「砂糖を入れないのに甘くて美味しいね」
 そう言ったのは初めの一回だけ。甜茶の甘さは、漢方薬のような(いや、ようなも何も漢方薬か)薬っぽい、変な甘さなのだ。
「この味、もうイヤー!」
「けっこう効果がある気がするからしばらく続けたいな。僕だけに淹れてくれれば良いよ」
「そんなの面倒!」
 さらに、私もその年から花粉症らしい症状が出始めていたのだ。悪化させたくないし、と、うんざりしながら数ヶ月、奇妙な甘みに耐え続けた。
 次の年の冬の終わり、
「また今年も甜茶の日々がやって来るのか……」
 憂鬱になっている所へ、ルピシアからミント甜茶・レモングラス甜茶・ローズヒップ甜茶が発売された。
「私は買うからね! 薬局の甜茶より高いけど、もうあの味はとにかくイヤだからね!」
「どうぞ」
 まずはミント甜茶を淹れてみる。
「おお、ミントキャンディーのようだ!」
 スーッとした中に甘みがあって飲みやすい。ホットでも良いが、アイスにするとなおいっそうキャンディーっぽくなって美味しい。
「去年の苦しみは何だったんだ……」
「こんなにミントが入ってて、甜茶の効果が薄れたりしないのかなぁ」
「ミントだってきっと花粉症に効くよ! のど飴だってスーッとするじゃん!」
 不安げなDちゃんをこじつけで説得。百パーセントの甜茶なんて二度と飲みたくない。
 次はレモングラス甜茶。レモングラスは、レモンとよく似たさわやかな香りのするハーブ。香りだけで、酸味は強くない。
「甘くしたレモンティーみたいだね」
「これも美味しい」
 レモングラスはトムヤムクンなど東南アジアの料理にも使われる。その割にそれほどクセはなく、飲みやすい。
 さて期待のローズヒップ甜茶。鮮やかな赤い水色に懐かしい味を思い浮かべつつ、ごくり。
 ん?
「何これ! 酸っぱくない!」
「ずいぶんまろやかだね」
「もっと梅干しみたいじゃなきゃ、イヤ!」
「梅干しというより…… あずきみたい」
 甜茶とローズヒップを混ぜて何故あずき? でも本当にそんな感じの味なのだ。
 この三種類を花粉症の季節の間、毎日代わる代わる飲み続けた。
「ねえ、ミントとレモングラスは良いけど、ローズヒップはもう飽きた……」
 あずき味では刺激が弱過ぎる。私にとって。
「僕はローズヒップが一番好きだな」
「ええー!」
「ミントとレモングラスも美味しいけど、僕には強過ぎるんだ。次買い足す時はローズヒップだけにしてよ」
 あんなあずき味、と思いつつ、甜茶を最も必要としているのはDちゃんだ。私は泣く泣くミント甜茶とレモングラス甜茶を買うのをやめた。
 後で分かった事だが、ローズヒップティーは百パーセントローズヒップではなく、さりげなくハイビスカスがブレンドされている。梅干しのような酸味や真っ赤な水色は、ほとんどこのハイビスカスの方から出ているのだ。ローズヒップ甜茶はおそらく、このハイビスカスが(私の勝手な基準より)少なかったのだろう。
 あずきじゃ我慢出来ん! と、花粉症の時期が去ってから、混ぜ物のないローズヒップとハイビスカスを買って来た。封を切ってアイスティー用の耐熱ガラスびんにパラパラパラ。熱湯を注いで一晩待つ。
「きっと酸っぱいから『チュッパ、チュッパ』って言いながら飲んでね」
「そんな事言わないよ……」
 その日は用事があったので、Dちゃんが飲む所を見ずに出かけてしまった。すると電車に乗っている途中でメールが入った。題名は、
「チュッパ」
 案の定チュッパかったらしい。
 その後も口内炎に効くラズベリーリーフ、イライラを抑えるセントジョーンズワート、貧血予防にダンディライオンと、あれこれハーブティーを作っては、Dちゃんに飲ませた。まるで茶の木(カメリアシネンシス)の世界に飽き足りない冒険者が、新たな大地を見つけようと大海原に向かって船を漕ぎ出すように。高校時代の生き生きとした無鉄砲さを、もう一度取り戻すように(取り戻す? いつ無鉄砲じゃない時があった?)
 冒険に無理やり同伴させられているDちゃんはどう思っているのだろう。そもそもお茶に気を遣うようになったのは、Dちゃんを喜ばせるためではなかったか。
 新年に届いた誕生日プレゼント(私の誕生日は年末)に添えられていたメッセージに全てが込められているので、ここに引用しておこう。

 のり
 お誕生日おめでとう。
 今年もよろしく。
 でも変なお茶はほどほどに頼む。
posted by 柳屋文芸堂 at 11:21| 【エッセイ】ど素人お茶談義 | 更新情報をチェックする