2008年10月21日

その音の響く夜に(その25)

 小四の夏休みの自由研究で、私は鋳物について調べた。

 この街では昔、鋳物産業が盛んだった事。
 鋳物工場―もっと大昔は「細工場」と呼んだ―があちこちにあって、優秀な鋳物師がたくさんいた事。
 どの工場も火の神様としてお稲荷さんをまつっていた事。
 そして毎年三月、初午の祭りとして太鼓を打ち鳴らしていた事。

 この街がベッドタウンとして開発されるようになってから、鋳物工場はどんどん減少している事。
 それにともなって初午の祭りも近所から苦情が来るようになり、太鼓抜きの地味なものになりつつある事。

 工場をつぶした跡地には、マンションやスーパーが建てられている事。
 フォックスパレスがある場所にも、昔、大きな鋳物工場があった事。

 図書館の郷土資料室に通いつめて書いたその文章を、担任の先生はいたく褒めた。とりわけ「鋳物師の仕事について」の部分を気に入ってくれたらしく、クラスみんなの前で読み上げ、
「まるで見て来たみたいだ。」
 と笑った。
posted by 柳屋文芸堂 at 22:24| 【中編小説】その音の響く夜に | 更新情報をチェックする