2008年10月21日

その音の響く夜に(その26)

 二十歳を超えた今でも、私は夏祭り前の二週間、太鼓の練習場に通っている。子供たちを指導する「先生」として。タツヤやヒロくんやユミは小学校を卒業した途端、太鼓の事なんてすっかり忘れてしまったのに。
 子供好きなのか人が良くて押しつけられるのか、あれからずっと同じおじさんが「ちびっこ会」の役員をしている。私を泣かせた事なんてまるっきり忘れているらしく、
「なっちは小さい時から飛び抜けて太鼓が上手かったもんな。」
 なんて平気な顔で言う。
 今になってみればおじさんの気持ちも分かるのだ。同じ学年の子は同じ扱いにしないと、親たちが黙っていない。他の四年生が実力不足だったからといって、私だけをやぐらに上げる訳にはいかなかったのだ。
 でも私は十分に気を付ける。子供たちに必要以上の期待を持たせて、後でガッカリさせないように。大人にとっては「毎年ある夏祭り」でも、子供にとっては「今年だけの夏祭り」なのだ。
 私みたいに傷付いて、そのあげく二度と会えない男の子を思い続けるようになったら、事だ。

 私は大人に、なった。
 一太、も?

 今年の夏祭りが終わったら、走り出してみようか。
 暗い方へ、暗い方へ。アスファルトのない、星の綺麗な場所へ。

 一太は粋な半てん姿で、鉄を熔かして丈夫な釜を作っている。
 いつ私が来ても良いように。
 待っている。
 きっと、待っている。 

 (おわり)
posted by 柳屋文芸堂 at 22:23| 【中編小説】その音の響く夜に | 更新情報をチェックする