2008年10月21日

その音の響く夜に(その27)

   あとがき

 筋としては単純な物語だというのに、実を言うと、書き上げるまで二年程かかっている。
 まず、詳しい時代設定こそないものの、現代が舞台の話ではないので、資料との格闘があった。関係する本や記録を集めて読み込む所までは楽しいのだけれど、それを物語に生かしていくのは本当に難しい。自分の力不足を痛感する事になった。
 さらに、結婚・新生活のバタバタで何度も書くのを中断した、というのもある。慣れない家事に時間を取られただけでなく、環境変化にひよわな心がついて行けず、精神不安におちいって文章が全く書けなくなったのだ。心が弱いのは昔からの事だし治しようもないので、今後はそこまでひどくならないよう気を付けて生活したい。専業主婦は常に孤独と共にある。気楽なように見えてけっこう危険でハードボイルドな仕事なのだ。
 そして、筆が止まった一番の原因。書き始める前に、
「ダメじゃない人間を書こう」
 という目標をかかげたのがいけなかった。登場人物が前向きな姿勢を見せるたび息苦しい気持ちになって、心底うんざりした。ダメ人間を書く時はあんなにうっとりするというのに。つくづく私は因果な性格だ。
 このようにあまり良い思い出のない作品なのだけれど、和太鼓について思う存分書けたのは素直に嬉しい。なっちと同じように、私も小学一年から結婚して引っ越すまで、
「夏は祭り、祭りは太鼓」
 の暮らしをしていた。今は打つ機会がないので本当に寂しい。誰か夏祭りに呼んで下さい。かなり華麗に舞いますので。
 昔話というより「自分の」昔話になってしまったこの小説。私の体に染み付いているあの音が、読んでくれた人の胸にも響くよう祈りつつ。

 二〇〇六年 五月の深夜、旦那を待ちながら
 柳田のり子
posted by 柳屋文芸堂 at 22:22| 【中編小説】その音の響く夜に | 更新情報をチェックする